消費者インサイトとは?潜在ニーズとは違う?マーケティング戦略で役に立つ消費者の知られざる本音
2021年09月10日
消費者は「自分の気持ちを分かってくれている」と感じる商品やサービスを選ぶようになってきたと言われています。
「安い」「高機能」「カラーバリエーションがある」このように誰でも考えつくようなニーズを叶えただけの商品・サービスは、市場に溢れかえっており価格競争に晒されます。
だからこそ「なんか好き」「しっくりくる」といった、消費者本人が認識できていないほどの感情や想いを捉えた、新たな価値の創造と提供が求められています。
この消費者本人が認識していない感情や想いの正体が「消費者インサイト(Consumer Insight)」です。
この記事では、新しい価値創造のヒントとなる消費者インサイトについて解説します。
- 消費者インサイトとは何か?
- なぜ今、消費者インサイトが注目されているのか
- 活用事例
- インサイトを得るための4つの手法
消費者インサイトとは何か
消費者インサイトとは、消費者自身が無意識のうちに抱いている本音や感情のことです。
インサイト(insight)とは、「洞察」や「本質を見抜くこと」のことです。
消費者インサイトは、よく言われる「ニーズ」の中でも「潜在ニーズ」に近い意味をもちますが、潜在ニーズよりもさらに無意識の深い領域にあるものとして区別されます。
ニーズとインサイトにはどのような違いがあるのでしょうか?
ニーズを捉えるだけでは不十分になってきた
そもそも、消費者は商品やサービスに対していろいろな思いや願いを持っています。
ただし、その思いはいくつかの階層に分けられます。
ニーズとインサイトはよく氷山に例えられるので、その例に合わせて解説しましょう。
顕在ニーズ
まずもっとも分かりやすいのが「もっとこの商品のカラーバリエーションがあったらいいのに」や「もっとこのサービスのカスタマーサポートが丁寧だったらいいのに」というように、本人も自覚している思いです。
この思いのことを「顕在ニーズ」と呼んでいます。顕在というのは、明らかになっているという意味です。
「顕在ニーズ」は氷山が海上に露出している部分に相当します。
潜在ニーズ
顕在ニーズのようにはっきりした思いではなく「この商品なんだかいまいちな感じがする」と漠然と感じているようなときもあります。
そんなときは、インタビューなどで「どうしてそう思うのですか?」と質問すると「そう言われば、質感のつるつるした感じがあんまり好みじゃないのかも」「ちょっと大きいので持ちづらそうだと思ったから」などと言葉を引き出すことが出来るでしょう。
このように、言語化されていないだけで、質問すれば引き出すことができる思いが「潜在ニーズ」です。
潜在ニーズは、氷山で言えば、水面よりすぐ下にある部分です。
これまでは、こういった顕在・潜在ニーズを捉え商品を開発すればよいと思われていました。特に値段や品質が選ばれるための大きなファクターとなっていたため、企業や生産者は、他社との違いが明確な商品を開発・販売することを重視していました。
しかし、顕在化したニーズを解決する商品はすでに市場に多く存在するようになりました。さらに消費者の属性や好みもどんどん細分化し、差別化自体もどんどん困難になっています。
そのためニーズだけを捉えた商品は価格競争に追い込まれています。
飽和している商品・サービスから一抜けするためにも、消費者インサイトという考え方が重視されるようになってきました。
消費者インサイトが重視される理由
消費者インサイトは、顕在ニーズよりも更に深いところにあり、消費者自身にすら感知されていないような思いです。
氷山で言えば、最も深い部分にあるものです。
消費者インサイトはニーズとして出来上がっていないパーツや欠片のような状態であると考えると分かりやすいでしょう。形になっていないので、消費者自身も「こういった商品・サービスが欲しい」と明確に理解していません。
たとえば、なにかの商品が目に入ったがなんとなく買わなかった、という行動をしたことはありませんか?
このとき、いちいち私達は「質感があまり好きじゃないなあ」「すこし大きすぎるかな」などと言語化しているでしょうか?
よっぽどその分野が好きだったり理解が深くなければ普通、何かを感じたと思うことなく素通りしているのではないでしょうか?
しかし、本当はなにか手に取らなかった理由があるはずなのです。
実際に「どうしてこの商品を購入したのですか?」「どうしてこのような行動をとったのですか?」とアンケート調査を行っても、具体的な回答ができないことがよくあります。
そもそも消費者は自分自身の欲求や、行動の理由を正確には説明しにくいものなのです。
だからこそ企業側は、商品購入者が言葉にできていないような想い=「消費者インサイト」にまで深堀りすることが重要です。
消費者インサイトを捉えることで「そういえば、こういう商品がほしかった」「自分の気持ちを分かってくれている」と消費者が感じ受け入れられる商品・サービスの開発や効果的なキャンペーンにつなげることが出来ます。
消費者インサイトの成功事例はある?
さて、ここまで消費者インサイトが重要視されるようになった背景を説明してきました。
しかし、実際に消費者インサイトを活用し、成功した事例はあるのでしょうか?
3つの事例から消費者インサイトの活用方法を見てみましょう。
事例1.SNSから、カップ麺の消費者インサイトを発見
カップ麺という飽和市場で新しく消費者インサイトを発見し、売上を伸ばした事例があります。
ある企業のカップ麺は、発売当初から大人気のロングセラー商品でした。
しかし、「若者が食べる」という印象が根強いせいか、60歳以上の購入者は少ないままでした。
そこで、この企業は新しいことに意欲的で行動力もあり情報発信能力のあるアクティブシニアに着目します。
これまでのシニア層向け食品は、どれも健康志向をうたう商品ばかりでした。
しかし、アクティブシニアを調査していくと、SNSの投稿に豪華な食事の写真が並んでいました。
アンケートをとるとシニア層の調査では「健康志向」というニーズが多かったにも関わらず、実際には、健康のためだけに食事の美味しさ・楽しさを諦めたくないというインサイトがあったのです。
このメーカーがシニア層向けに健康に配慮しつつも、高級料理の味が楽しめるシニア層向けカップ麺を開発したところ、なんと通常の商品より高価格でありながらも、販売して約半年程度で1,400万食を突破したことで話題となりました。
シニア層であっても「おいしければカップ麺だって食べる」というインサイトを発見したひとつの事例です。
事例2.和定食チェーン店における女性客の消費者インサイト
こういった事例もあります。
ある和定食チェーン店は、地下や2階以上に多く店舗を構える戦略をとっています。
一般的に集客を増やすためには1階に店舗を置くのが理想的と言われているため、一見不合理に見えます。しかし、女性客のインサイトを鑑みるととても合理的なのだといいます。
そこで、この和定食チェーン店は新たなターゲット層の開拓のための施策として、女性に向けたコンセプトを打ち出しました。
その中で、女性客を呼び込むために、「1人での外食は苦手」という女性の気持ちに着目していく流れとなりました。
調査をはじめると、1人で外食をするのが苦手なのではなく、「1人でお店に入るところを見られたくない」というインサイトが見つかったのです。
そのため、地下や2階という人の目につきにくい場所に店舗を構え、内装もキレイで野菜を多く使ったメニューで充実させ、女性客の心をつかんだのです。
事例3.「got milk?(ミルクある?)」キャンペーン
最後に、1990年代のアメリカの事例です。これは、消費者インサイトが注目されるきっかけとなった事例としてとても有名なものです。
当時のアメリカでは牛乳の消費量が落ち込んでおり、カリフォルニア牛乳協会は販売拡大のキャンペーンを検討していました。
牛乳を購入しなくなった人達の理由を調査したところ、そもそも消費者が牛乳に対して「脂肪分が多い」や「子供の飲み物」といったイメージを持っていることが分かりました。
協会はこの調査から分かったイメージを払拭するためのキャンペーンを実施しましたが、成果はあがりませんでした。
そこで、さらに実際に牛乳を飲んている人を対象にして飲むシーンを分析したところ、クッキーなどと一緒に牛乳を飲んでいることが分かりました。
牛乳を飲むのを1週間我慢してもらい再度ヒアリングを行ったところ「テレビを見ながらクッキーを手に、飲み物が欲しいと思った時に、牛乳を飲まない約束を思い出して最悪な気持ちになった」という意見を得ることが出来ました。
この意見がきっかけとなって「クッキーを食べるときに牛乳が無いと困る」という消費者インサイトを発見しました。
クッキーのように口の中の水分が持っていかれてしまう食べ物には牛乳が合う」という牛乳の価値に焦点をあててプロモーション戦略を立てました。
このプロモーションのメッセージが「got milk?(ミルクある?)」です。
牛乳を家にストックしておけばクッキーを食べる時に困らないことを印象付けるため、クッキーと一緒に「got milk?」というメッセージが記されたポスターを展開したのです。
このキャンペーンは大成功し、カルフォルニア州だけでなく全米で2014年まで展開されました。
消費者インサイトを得るためにはどうすればいい?
消費者インサイトは、
- 消費者の新たな需要を満たす商品・サービスを開発するアイディアとなる
- 効果的なキャンペーンを展開し、市場での認知度の向上やポジションの定着化につなげる
といったように市場の起爆剤となりえます。
しかし、消費者インサイトは消費者に聞いても本人の口からは答えは出てこないものです。
では、どのようにして消費者インサイトを発見することができるのでしょうか?
消費者インサイトを発見するためには、以下の4つの手法が有効と言われています。
- ソーシャルメディア分析
- MROC
- 行動観察調査
- インタビュー調査
1.ソーシャルメディア分析
匿名でも発信できるSNSには、人には言いづらいような本音が溢れています。
投稿文は本人がすでに自覚し言語化しているものではありますが、本音に触れるという点でソーシャルメディアは十分に活用しやすいものです。
「ポテトチップスAの購入理由を調査する」という設定で、ソーシャルメディア分析の一連の流れを見てみましょう。
- 1.調べたい製品の購入に関する投稿を検索から調べる
- 「ポテトチップスA 買った」や「ポテトチップスA 味」などのキーワードでSNSの投稿を検索します。
- 2.投稿内容から「なぜ」「どうして」といった動機を深堀りする
- 次に検索して出てきた投稿の内容について、共通点や注目すべきポイントを探していきましょう。
例として「おやつ」という言葉が投稿に多く登場しているのであれば「間食やおやつとして食べたくて購入した」という可能性が高くなります。
もし「濃い」や「重い」という言葉が多いのであれば、「他のポテトチップスに比べて味が濃くて不評」と考えられます。 - 3.投稿内容から利用状況や属性を調査する
- ソーシャルメディア分析では、購入動機だけでなく、利用状況も調べられます。
一度だけの購入なのか、二度目の購入なのか、などを投稿内容から調べることが可能です。
どのようなタイミングで食べているのか、年齢層やシチュエーションなどの傾向も分かってきます。
このようにスマートフォンユーザーが使うSNSから、どのような動機で行動を起こしたのかヒントを得ることができます。
2.MROC
MROCは、「Marketing Research Online Community」の頭文字からなる手法です。「エムロック」と読みます。
MROCでは、調査対象者専用のコミュニティをオンライン上に作り、1~2ヶ月程度の期間、コミュニティ内で交流をしてもらいます。このオンラインコミュニティ上の参加者同士の交流や意見から情報を収集しようとするリサーチ手法です。
対象者同士の会話から生まれる言葉は対象者自身の新たな気付きにも繋がり、想定する事が出来なかったインサイトを見つけ出す事が可能です。
MROCでは、アンケートだけではなくディスカッションなども組み合わせることができます。現代の需要にマッチしたデータの収集方法として注目を浴びています。
3.行動観察調査
「行動観察調査」はインサイトを探るために、手軽で優れたリサーチ方法と言われています。
- 新商品の開発のため、ターゲットの消費者の日常生活や行動を観察する
- 店頭で実際に買い物をしている行動の観察をする
- オンライン上でいくつかデザインパターンを用意し、実際に行動・操作をしてもらい観察する(UI/UXテストなど)
行動観察調査は、このように対象者の行動をまず実際に観察する手法です。民俗学の同手法から、エスノグラフィー調査と言われることもあります。
「なぜこんな行動を行ったのだろう?」「どうして一度商品を見たのに別の売り場に向かったのだろう?」などと顧客の思考・行動の理由を想像しながら観察することで、本人が意識もせず言語化していないインサイトを見つけることができます。
4.インタビュー調査
インタビュー調査は、消費者インサイト以外でもよく活用されている一般的なリサーチ方法で、多様性に優れています。消費者とモデレーターが同席し、その人自身のことや、日常の生活、商品・サービスへの評価を聞き出す方法です。
インタビュー調査には大きく分けて2種類あります。
グループインタビュー
定性調査の中で最もよく行われています。
4~8人程度のの調査対象者をに集め座談会方式でインタビューを行います。
モデレーターが参加者に商品・サービスに対する感想などについて質問し、ウェブや紙のアンケートでは読み取れないような参加者の生の声も聞き取ることができます。
参加者同士で触発され、参加者が思ってもみなかったような意見からインサイトを発見することが出来るでしょう。
デプスインタビュー
デプスは「深さ」という意味です。その名の通り、対象者とモデレーターが1対1で時間をかけ深く聞き出す手法です。
デプスインタビューのメリットは、1対1での会話形式でおこなわれるためプライベート・センシティブな質問もできるところです。
グループインタビューのように複数人での同時インタビューでは、他の参加者の発現に左右され、本音が言えない状況になってしまう場合があります。
年収・ローン・身体の健康といったテーマであっても、デプスインタビューであれば比較的話しやすいです。
まとめ
マーケティングにおいて飽和した市場から一抜けするためには、消費者インサイトを探ることが重要になっています。
消費者インサイトをもとに、商品・サービスを開発したりキャンペーンを行うことで、消費者の知り得なかった・気が付かなかったニーズが生まれます。
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