CS調査とは?よくある失敗と効果的な調査を行うための6つのポイント
2021年05月15日
CS調査は、すでに商品やサービスを使っているユーザー(既存顧客)を対象に商品やサービスの満足している点・不満に思っている点をあぶりだし、改善施策につなげていくための調査です。
ただCS調査をしてみても、
手応えはあるのに、なかなかスコアが上がってこない
高水準なのに売上につながらない……
といった悩みがある方もいるのではないでしょうか?
この記事では、よくあるCS調査の失敗をとりあげながら、どうしたら効果的なCS調査ができるのか、ポイントを絞って解説します。
CS調査とはなにか?
CS調査は、すでに商品やサービスを使っているユーザー(既存顧客)を対象に、商品やサービスの満足している点・不満に思っている点をあぶりだし、改善施策につなげていくための調査です。
既存顧客の満足を高めることは、実際に売上の増加につながります。
「新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの5倍かかる」と示した1対5の法則や、
「顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善する」と示す5対25の法則が有名ですね。
CS調査を行うとどんなことが分かるのでしょうか?
◆CS調査で分かることの例
- 顧客セグメントごとの違いはなにか
- 自社の商品やサービスのリピーターとそうでない人の違いはなにか
- 店舗・事業所による違いはなにか
- どこにその理由があるのか
このように顧客が満足している点・不満に思っている点の要素が細かく分析できることで、改善施策に繋げやすく、結果的にリテンション(既存顧客の囲い込み、リピーター創出、商品の再購入といった顧客維持)達成が期待できます。
よくあるCS調査の失敗例とその原因
CS調査を実際に活用している企業は多くありますが、実際にはうまく活用できていないこともあります。
その結果、こんな悩みのある企業も多いのではないでしょうか?
- CS調査のポイントが上がらない
- 営業や店舗の実感としては顧客満足度が向上しているのに、結果に出てこない
- CS調査では高水準を示しているのに、売上が上がらないもしくは下落している
こういった悩みは、5つの原因に分けて考えられます。
◆CS調査が失敗する原因
- 調査後、顧客満足向上のためのアクションをしていない
- CS調査を単発で行い、アクションの検証をしていない
- 仮説を設定せずにCS調査を行っている
- 仮説に合った調査設計になっていない
- 適切な指標を用いていない
それぞれの失敗の原因を見ていきましょう。
失敗1.調査後、顧客満足向上のためのアクションをしていない
調査結果に一喜一憂するだけで終了し、その後調査を踏まえて改善施策を行わなければ、当たり前ですが自然に顧客満足度が向上することは少ないでしょう。
CS調査は漠然と行うものではなく、仮説を設定し、実際の顧客満足度とのギャップを調べるためのものです。アンケートをとりっぱなしで改善施策をPDCAにまで落とし込めないと、顧客満足度は向上することは少ないでしょう。
失敗2.CS調査を単発で行い、アクションの検証をしていない
そもそもCS調査は、絶対評価(一定の基準に届いたかどうか)ではなく、相対評価(過去や他社・他製品と比べてどうか)で見るべきものです。
単発の調査であっても、他との比較によって仮説を検証することはできます。しかし、その場合、調査以降に行った改善施策の効果検証ができません。
効果的なCS調査のためには単発で終わらせるのではなく、継続的にCS調査を行い施策のチェック・評価を行うべきです。
失敗3.仮説を設定せずにCS調査を行っている
CS調査を行う前には、明確な仮説を設定することが重要です。
仮説を立てないまま、漠然と「顧客は自社の製品、サービスのどんなポイントに満足しているんだろう?」と調査を始めてしまうと、調査結果を前に「どう解釈したらいいのか……」と頭を悩ませてしまうことになりかねません。
そうではなく、調査を行う前には「CS調査を行うことで何を知りたいのか?」「CS調査を行い、その結果何をするのか?」まで踏み入って言語化しておきましょう。
仮説の具体的な立て方については、のちほど詳しく解説します。
失敗4.仮説に合った調査設計になっていない
せっかく仮説を立てても、それに沿った質問を設計できていなければ精度の高いCS調査はできません。
あれもこれもと質問を盛り込み目的と関係のない質問をしていないか、回答者の負担が増えていないか、ターゲットの使う媒体に沿ったUIになっているかなどをチェックし、調査設計を最適化しましょう。
日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が作成したインターネット調査ガイドライン第二版では、インターネット調査の基本方針として4つの方針を挙げています。
- 調査協力者を大切にする
- 時代に合ったインターネット調査を実施する
- 調査協力者の回答負荷を意識した調査票を設計する
- どんなデバイスでも回答できる調査票を設計する
こちらの動画はわかりやすくまとまっているので、調査設計前に見てみると参考になるかもしれません。
失敗5.適切な指標を用いていない
「CS調査を定期的に行って施策を振りかえっているし、調査設計もしっかり出来ている。なのにCS調査の結果と現状がうまく噛み合わない」という場合、調査に用いている指標そのものを考え直す必要がある場合があります。
顧客満足度を測る代表的な指標にはCSI、JCSI、NPS®の3つがあります。指標についても、のちほど詳しく解説します。
効果的なCS調査を行うための5つのポイント
こういったCS調査の失敗を避けるためには、裏返せば、失敗の原因となる5つのポイントを避ける必要があります。つまり、良質なCS調査設計のための5つのポイントはこちらです。
◆CS調査の5つのポイント
- CS調査を行う前に仮説を立てる
- 顧客満足度を測るための適切な指標を用いる
- 仮説を踏まえた調査設計を行う
- 調査後、満足度改善のためのアクションを実施する
- アクション検証のために継続的なCS調査を行う
そこで次は、顧客満足度を測るための指標にはどんなものがあるのか解説しましょう。
顧客満足度(CS)を測る代表的な3つの指標
顧客満足度を測る代表的な指標として、CSI・JCSI・NPS®の3つをまず押さえておきましょう。
このうちCSI・JCSIは「期待不確認モデル」を元にしています。NPS®は、顧客ロイヤリティのうち他者推奨意向を測る指標です。
CSI・JCSIでは、商品やサービスを実際に使う前に「商品やサービスにどれほど期待しているか」を数値として表し「実際に商品やサービスを使った満足度」を数値で表したものとの差を見ます。
「実際に提供される商品・サービス」が「事前の期待度」よりも1点でも上回っていれば「顧客は満足した」と見なします。
逆に「実際に提供される商品・サービス」が「事前の期待度」と同一だったり下回れば「顧客は満足しなかった」となります。
CSI(Customer Saticfaction Index)
引用 経済産業省
CSIは、アメリカ・イギリス・韓国など30カ国以上で用いられている顧客満足度の指標です。ACSI(米国、ミシガン大学)が中心となり、パートナーとして他国にライセンス提供しています。
CSIでは、「顧客期待値」「知覚品質」「知覚値」「顧客不満度」「顧客忠実度」といった相関関係のある複数の質問を実施し、結果の平均値をとることで、信頼できる数値を割り出します。
JCSI(Japanese Customer Saticfaction Index)
JCSIは、いわば日本版のCSIです。経済産業省の委託事業としてサービス産業生産協議会が主体となって開発し、2009年度に公開した指標です。
大きく6つ項目があり、それぞれ「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「顧客満足」「推奨意向」「ロイヤルティ」を測る質問が3~4問程度設計されています。回答の得点を100点満点で指数化することで、業種を超えて満足度の比較が可能になります。
NPS®(Net Promoter Score)
CSIやJCSIとは理論的支柱が異なり、「他者推奨意向」を特化して測る指標がNPS®です。
そもそも顧客満足度は1980年代ごろから使われ始めた概念です。それまでの売上といった目に見える数値ではなく、顧客の満足感を重視する考え方は革新的でした。
ただし、顧客満足度が高いからといって必ずしも継続的に商品・サービスを購入してくれるわけではないという課題がありました。
そこで、1990年代ごろから「顧客ロイヤルティ」という概念が浸透しました。
ロイヤルティを日本語訳すると「忠誠心」。ロイヤルティとは、顧客が商品やサービスに対して持つ「好き」や「次も買いたい」といった愛着、思い入れ、信頼感などの肯定的な感情のことです。
顧客ロイヤルティの中にも、継続利用意向(今後も自分が使い続けたいと思うかどうか)と他者推奨意向(他の人に勧めたいと思うか)がありますが、NPS®は、他者推奨意向を数値化する指標です。
NPS®の設問はシンプルで、「0~10点で表すとして、この企業(あるいは、この製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」といったものです。このうち、0から6を付けた顧客を批判者(デトラクター)、7・8を中立者(パッシブ)、9・10を推奨者(プロモーター)としてそれぞれ割合を出します。
NPS®は、Appleやアメリカン・エクスプレスなどグローバル企業5,000社以上で採用されています。シンプルでわかりやすいのが特徴で、売上成長と相関が強いと言われています。
11段階に正しく細かく評価するのが難しいような商材向けに、2019年にNRS(Net Repeater Score:正味お客さま継続率)という日本版NPSも開発されています。
CS調査でよく使う手法
CS調査では、さまざまな定量調査・定性調査が用いられます。
一言でいえば、定量調査とは、傾向・割合・ボリュームなど調査結果が「数値」で表される調査です。数値なので、解釈やデータ集計、比較がしやすいという特徴があります。
定性調査とは、「どう感じたのか?」「なぜそのような行動をしたのか?」といった数値にはなかなか現れてこない個人の気持ちや思いを「言葉」で把握する調査です。
定量調査ではインターネット調査、定性調査ではグループインタビューが多く使われます。ただし、状況に応じて電話調査、郵送調査、覆面調査、デプスインタビュー、観察調査といった他の手法も用いられます。
インターネット調査
ウェブ上で条件のあう対象者にアンケートに回答してもらいデータを収集する方法です。
インターネット調査は定量調査で主流の調査方法です。
◆インターネット調査のメリット
- 費用が安い
- 調査期間が短い
- 工数がかからない
- 回答者の負担が少ない
- 広域で実施できる
直感的に答えやすい特徴があります。顧客の事前期待と利用後の満足度の差を特に知りたいときに使われます。
グループインタビュー
グループインタビューは、あるテーマについて座談会を行い、意見やアイデアを収集する方法です。6~8人程度の参加者と司会進行役となるモデレーターでグループを作るのが一般的です。
◆グループインタビューのメリット
- 多様な視点からの意見が一度に得られる
- 参加者同士の意見の交換による相乗効果(グループ・ダイナミクス)が期待できる
オンラインで座談会が行われることもあります。
CS調査アンケート作成の流れとポイント
今度は、JCSIを元に実際にインターネットアンケートにてCS調査を行う想定で、効果的なCS調査のための流れとポイントを一緒に押さえましょう。
CS調査の大きな流れはこのようになっています。
それぞれの段階でどんなことに気をつけるべきなのでしょうか?
ステップ1.仮説を立てる
いきなりお金をかけてアンケートを実施するのは非効率的です。まずは何を調べなければいけないのかはっきりさせるため、仮説を立てましょう。
◆仮説の立てるためのヒント
- 実際の現場に行く
- 営業やサポート部門など、直接顧客と接する部門の担当者にヒアリングする
- 身近な想定ターゲットに話を聞いたり、試しに商品やサービスを買ってもらう
- デスクリサーチでターゲット層の反応をざっと確認する
こういったことを通して、「〇〇のようだ」「〇〇なのではないか」と具体的に売上が立っていない理由などを考えます。
ケースバイケースではありますが、仮説はまず2つに分けて考えるとわかりやすいです。
- 現状仮説
現状はこのような実態になっているのではないかと想定される問題点 - 戦略仮説
このような戦略・施策を実行すれば有効ではないかと想定される、問題点の解決策
仮説は、現状仮説と戦略仮説を対にします。「〇〇な状態だったら、××をすればうまくいくのではないか」というように組み立てます。
参考『マーケティングリサーチの手順と使い方 定量調査編』蛭川速、吉原慶を基に筆者作成必ずしも仮説どおりの調査結果が得られる必要はないので、安心してください。仮説をもって調査解析を行うことで、その後の考察が豊かなものになることが大事なポイントなのです。
ステップ2.調査票作成
仮説を元に、実際の調査項目や選択肢を作成します。「何を聞けば仮説を検証できるか?」を考えてみると良いでしょう。
同時に、誰にリサーチするのか、どのようにサンプルを回収するかも設計しましょう。
◆調査票の項目例
- 調査背景
- 調査目的
- 調査方法
- 調査手法
- 調査地域
- 調査対象者
- 回答数と割付
- 調査項目
- 調査時期
- 調査費用
- 調査スタッフ
実査が終わったあとに後悔しないよう、この段階でどのように分析するかまで考えておきます。
クロス集計のような単純な分析だけでなく、多変量解析やPSM分析(価格調査)を予定している場合、あらかじめ調査票でもその分析が可能になるようにしておかなければならないからです。
さらに、分析結果によって戦略仮説(このような戦略・施策を実行すれば有効ではないかと想定される、問題点の解決策)が採用された場合と棄却された場合の実施案まで踏み込んで考えておくと、分析後アクションまで間断なく移行しやすいです。
◆調査項目作成の注意点
- 回答者負担が大きくならないように配慮する
設問が多すぎて回答者の負担が大きくならないように配慮しましょう。
JMRAの調査によると、20問以上の調査では離脱率が10%を超えていました。 - 論理的な設問構成にする
- 設問順を意識する(過去⇒現在⇒未来の順番に構成するように心がける)
- 実態を聞いてから常態をきく
- カテゴリは大⇒小へ
- 設問の区切りは明確に
- 主語を必ずいれる
- 誘導尋問にならないようにする
- 人によって解釈が異なる言い回しは避ける
- 1問で複数のことを聞かない
- 選択肢は長文にしない
- 略語は極力使わない
- 回答バイアスを避ける
- 漏れなく・ダブリのない選択肢にする(MECE)
ステップ3.実査
実際に調査を実施します。
ステップ4.集計表・レポート
単純集計・クロス集計などを行い、仮説を検証します。
分析のための分析にならないようにするには、分析によって「何を明らかにして、どのようなアクションに繋げたいのか」目的に立ち返ると良いでしょう。
仮説に対して調査結果がどうだったのか、調査の不足点はないか、次にどういうアクションが必要なのかまとめます。
意思決定者を動かすために、アウトプットはグラフなどでシンプルにわかりやすくまとめましょう。
ステップ5.アクションの実施・効果測定
得られた仮説の結果を元に、改善アクションとその優先順位を決定します。
アクション実施後、再度最初のステップに立ち戻り効果を測定することで、チェックとアセスメントを行います。
CS調査にかかる作成期間と料金
自社にCS調査のノウハウ・リソースが無い場合、専門の調査会社に依頼することになります。その場合、調査にはどれだけの時間と料金がかかるのでしょうか?
インターネットアンケートの場合
期間 | ~1ヶ月程度 |
---|---|
料金 | 10万円~ |
納品物 | ローデータ |
まとめ
CS調査のよくある失敗を取り上げながら、効果的な調査を行うためのポイントを解説しました。
CS調査はいまやマーケティング活動に必須なだけに、取り入れている企業は非常に多いですが、実際のところ体系立ててきちんと運用できている企業はそう多くはありません。
まずは、自社のCS調査と紹介した効果的なCS調査のための5つのポイントを照らし合わせてみてはいかがでしょうか?
◆CS調査の5つのポイント
- CS調査を行う前に仮説を立てる
- 顧客満足度を測るための適切な指標を用いる
- 仮説を踏まえた調査設計を行う
- 調査後、満足度改善のためのアクションを実施する
- アクション検証のために継続的なCS調査を行う
◆参考文献
『ネット・プロモーター経営』フレッド・ライクヘルド、ロブ・マーキー
『アンケートによる調査と仮想実験』高橋武則、川崎昌
『顧客満足「CS」の知識』小野譲司
『プロが教えるマーケティングリサーチとデータ分析の基本』中野崇
『基本がわかる/実践できる マーケティングリサーチの手順と使い方 定量調査編』蛭川速、吉原慶
『この1冊ですべてわかる マーケティング・リサーチの基本』岸川茂、JMRX
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