【マーケティング】イノベーター理論とは?市場普及の鍵とキャズムを知る
2021年09月30日
「新商品やサービスが思うように市場に受け入れらず失敗に終わってしまった」
これはビジネスの根本的な悩みであり、数十年前から多くの人を悩ませていました。
新しいアイデアを市場に普及してゆくために提唱された有効な理論に「イノベーター理論(普及学)」があります。
- イノベーター理論(普及学)
- 新しいアイデアや技術、製品・サービスなど(=イノベーション)が、どのように・なぜ・どのぐらいの割合で市場に普及していくかを体系的に分析した理論。
- 新しいものを受け入れる性質によって対象者を「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」5つの層に定義したことで有名。
この記事では、イノベーター理論を以下の観点から噛み砕いて説明します。
- イノベーター理論とはなにか
- 対象者の5つの層
- イノベーター理論の実務上の溝「キャズム」
- 新しいアイデアを市場に広めるための鍵
イノベーター理論とはなにか
イノベーター理論は、1962年アメリカ・スタンフォード大学の社会学教授エヴェレット・M・ロジャーズによる著書『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』で提唱されました。
当たり前ですが、市場において人々がまったく同じタイミングで新しいサービスや商品を使い始めるということはありません。
では、どういう要素によって個人が使い始めるタイミングは決定づけられるのでしょうか?
イノベーター理論では、新しいものを受け入れるタイミングは個人の「革新性」により決定づけられるとしています。
この違いから、新しい商品・サービス・アイデア・技術といったものの浸透は、以下の順番で普及すると定義します。
◆イノベーションが市場に浸透する順番
- イノベーター(革新層)
- アーリーアダプター(初期採用層)
- アーリーマジョリティ(前期多数派)
- レイトマジョリティ(後期多数派)
- ラガード(遅滞層)
これら5つの層の割合は決まっており、正規分布を描く(釣鐘型になる)というモデルが示されています。
カテゴリー | 割合 |
---|---|
イノベーター(革新層) | 2.5% |
アーリーアダプター(初期採用層) | 13.5% |
アーリーマジョリティ(前期多数派) | 34% |
レイトマジョリティ(後期多数派) | 34% |
ラガード(遅滞層) | 16% |
新しいアイデアが市場に普及するとき、最初から爆発的に受け入れられることは多くありません。
受け入れる人が少ないときイノベーションの受け入れはゆっくり進行しますが、市場の半分が受け入れるまでに加速が最大になります。
その後イノベーションを受け入れていない人たちが少なくなるにつれて、徐々にスピードがゆるやかに戻ります。
上の図は、アイオワ州の2つのコミュニティにおいて毎年どれぐらいの人たちが雑種とうもろこしの種を新しく受け入れたのかを調査したグラフです。
採用者数は釣鐘型を描き、累積採用者数はきれいなS字を描いています。
5つのそれぞれの層が具体的にどのような特徴を持っているのか、詳しく見ていきましょう。
イノベーター(Innovators:革新層)
新しいアイデアを最も早く受け入れるのがイノベーターです。全体の2.5%を占めています。
イノベーターは、冒険心が強い人々です。
経済的な余裕があり、異業種交流を好み、リスク許容度が高いという特徴があります。もし新しいアイデアが失敗してもあまり気にしません。
イノベーションを市場に普及させようとするときにもっとも早く取り入れる人たちであり、製品やアイデアを市場に広げてゆくために足がかりとして重要な層です。
アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用層)
アーリーアダプターは、新しいアイデアを積極的に収集を行い取り入れますが、イノベータよりも価値やメリットなどを具体的に検討し賢く選択しようとする層です。
市場全体の13.5%を占めます。
異業種交流を好むイノベーターよりも、アーリーアダプターは仲間意識が強い特徴があります。グループにおいて中心的な立ち位置となって、他の多くのメンバーにとってロールモデルとなることが多いです。
アーリーアダプターがイノベーションを受け入れることで、地域やグループの仲間が情報を得ることができ、リスクを減らすことが出来ます。
この特性から、アーリーアダプターは他のどの層よりも「オピニオンリーダー」(=大きな影響度を持つ人)の程度が大きいです。
アーリーマジョリティ(Early Majority:前期多数派)
アーリーマジョリティは、市場の平均に先んじてイノベーションを受け入れる層です。
市場全体の34%を占めます。イノベーションがアーリーマジョリティまで浸透すると、市場の50%に普及したことになります。
アーリーマジョリティは、イノベーションを受け入れることには肯定的です。
しかし、イノベーターやアーリーアダプターと違ってすぐに受け入れることはありません。口コミや評価などを調べ熟考してからようやくイノベーションを受け入れます。
イノベーションがアーリーマジョリティに浸透しきると、以降普及するスピードはゆるやかになってゆきます。
レイトマジョリティ(Late Majority:後期多数派)
レイトマジョリティは、市場のほとんどの人が受け入れるまでイノベーションを受け入れることがありません。
イノベーションについて抵抗感があり慎重で、リスクや不確実性を嫌います。多くの場合、経済的な必要性や仲間からのプレッシャーにより受け入れを決定します。
市場全体の34%を占めています。
既存の商品で満足しているため、新商品でなければならない理由や安心感などがないと購入に踏み切らない傾向があります。
ラガード(Laggards:遅滞層)
ラガードは最も保守的な人たちで、全体の16%を占めています。
新しいものに対して関心が全くなく、むしろイノベーションを拒否する傾向にあります。
リスク許容度が低く、失敗しないことを確信してからでなければ受け入れることはありません。イノベーションを受け入れるための期間も最も長いです。
最後までイノベーションを受け入れない選択をする人もいます。
普及率16%の論理への反論
イノベーター理論では、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた普及率16%=クリティカル・マス)が重要であり、そこまで攻略できればあとは一気に多数派に普及すると考えられていました。
しかし、実務においてはそうでない場合もある、と1991年になってアーリーマジョリティへの普及の難しさを指摘した「キャズム理論」が提唱されるようになります。
市場普及を阻むキャズム(深い溝)
アーリーアダプターとアーリーマジョリティのあいだには大きな溝(キャズム)がある。
これはアメリカのマーケティング・コンサルタントであるジェフリー・A・ムーア氏が、1991年にハイテク製品のマーケティングについての著書『キャズム(Crossing the Chasm)』のなかで提唱した理論です。
ムーアは特にハイテク製品市場においては、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた「初期市場」とアーリーマジョリティからラガードまでを合わせた「メインストリーム市場」があると指摘します。
そして、この2つの市場の間には大きな隔たり(=キャズム)があり、実際には多くの製品やサービスが這い上がれずに消えていると言います。
なぜなら、初期市場は先見の明のある人たちで構成されますが、メインストリーム市場は実用主義者で構成されており、イノベーションに対する価値観や期待がまったく異なっているからです。
たしかに「流行るかも?」といった商品やサービスであっても、時間が経つと人知れずひっそりと廃れてゆくことは私たちの実感としてもよくあることです。
ではこのキャズムを越えるためにはどうすればよいのでしょうか?
キャズムを越えるにはそれぞれの層に合わせた施策を行うことが鍵
キャズムを乗り越えアーリーマジョリティへの普及を行うには、アーリーマジョリティのニーズや価値観に合わせた施策を行うことが重要だとされています。
アーリーマジョリティ向けには新しいということだけでなく、「安心や実績」といった訴求に切り替える必要があります。
◆層別の訴求のポイント
分類 | 特徴 | 訴求ポイント |
---|---|---|
イノベーター (革新層) |
新しいものが好き | 最先端、新商品、革新的であることなど |
アーリーアダプター (初期採用層) |
新しいだけでなく価値やメリットも考慮する | 新しさに加えて従来のものより優れているポイントや具体的なメリットなど |
アーリーマジョリティ (前期多数派) |
新商品に対して慎重だが流行に乗り遅れたくない | すでに流行していることのデータ、影響力のある専門家の意見、具体的なメリットなど |
レイトマジョリティ (後期多数派) |
新商品に対して懐疑的だが多数が導入していると採用する | 多くの人が採用していること、デメリットがないことなど |
ラガード (遅滞層) |
保守層 新しいものに関心がない |
歴史がある、安心できる、定番であることなど |
アーリーアダプターはそもそもグループで中心的な立ち位置にあり、オピニオンリーダー(=影響力が大きい人)としてイノベーション普及に貢献してくれる可能性が最も高いです。オピニオンリーダーを上手に活用することがキャズムを越える有効な方法だと言われています。
オピニオンリーダー活用の方法としてよくある施策を2つ紹介します。
インフルエンサー・マーケティング
アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの橋渡しとして有効と言われるうちの一つがインフルエンサーの活用です。
インフルエンサーとはSNSにおけるフォロワー数が多く、影響力のある人のことです。
自身のファンコミュニティにおいて購買行動に強い影響を与えることができます。
インフルエンサーを起用するメリットは、フォロワーの年齢層や嗜好がある程度固まっているため、ターゲット層が絞りやすいことです。
例えば、イノベーターとアーリーアダプター向けにはweb広告・SNS、アーリーマジョリティ以下向けにはテレビCMや新聞折込を、といったように、ターゲットにあわせてコミュニケーションチャネルを使い分けることが大切です。
自社製品やサービスの特徴やターゲットにぴったりのインフルエンサーを慎重に検討しましょう。
アンバサダー・マーケティング
キャズムを越えるために有効と言われるもう1つの施策はアンバサダーです。
アンバサダーとはいわゆるイメージキャラクターです。
すでに商品やサービスを採用している消費者を、アンバサダーとして起用することで市場普及を後押しします。
アンバサダーには、好感度が高く、もともとその商品やサービスに対してファンであるなどイノベーションそのものに対して理解が深い人物を採用します。
そのため、アンバサダーから発信される情報はリアルで説得力があるのが魅力です。
SNSなどを中心にして実際に使用した感想や使い方が紹介されることで、購買に躊躇しているアーリーマジョリティを取り込みやすくなります。
インフルエンサーとの違いは、ブランドや質を重視する点です。
インフルエンサーは瞬間的な拡散力があり、新商品やキャンペーンなど短期間の間に情報を伝える力に優れています。
一方でアンバサダーは、会社そのもののブランドや商品の質をじっくりと伝えることに適しています。
5つの層に合わせてプロモーションを実施することが鍵
イノベーションを普及させるためには、5つの層のそれぞれ特性に合わせたプロモーション戦略が必要です。
イノベーター理論では市場を5つの層に分け、どのように普及させてゆくべきかのヒントを示唆しています。
特にアーリーアダプターの心を掴み、オピニオンリーダーにアーリーマジョリティへの橋渡しをしてもらうことが、キャズムを乗り越え市場普及50%を突破するために有効であるとされています。
5つの層に合わせて適切なリサーチとプロモーション施策を行うことで、新しいアイデアや商品・サービスを市場に普及させることに繋がるでしょう。
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