重回帰分析とは?ビジネスでの活用シーンや方法・注意点を解説
2021年10月06日
マーケティング領域でよく用いられる多変量解析の一つに「重回帰分析」があります。
重回帰分析は結果を予測したり、結果に相関のある項目を算出したりするときに活用される分析手法です。
例えば売上には値段、品質、接客といった要素が関係していると推測されます。 売上を向上させるためには、これら全ての要素を高めればいいのですが、一度に行うのは実際にはなかなか難しいものです。
重回帰分析を活用すれば、どの要素が売上にどれくらい寄与しているか把握できるため、より費用対効果の高い施策が打ちやすくなります。
こういった特徴から、重回帰分析は、売上予測やブランドのイメージ・顧客満足度の分析など、幅広く活用されています。
この記事では、重回帰分析の概要から、ビジネスでの活用シーン、具体的な重回帰分析方法や注意点を紹介します。
重回帰分析とは
- 重回帰分析)
- 結果(目的変数)を予測するときに、2つ以上の変数(説明変数)との相関関係を数式化して示す統計手法のこと。
重回帰分析では目的変数と説明変数を用いて算出します。 端的に言うと、目的変数は「リサーチする上で求めたい数値や結果」説明変数は「結果に関連する要因や原因」を表します。
例えば、以下のような説明変数を用いて重回帰分析で売上を分析した結果を考えてみましょう。
これは、総合満足度が商品単価・駅からの距離・店員数・面積にそれぞれの数値の分だけ影響されて決定づけられているということを示しています。 矢印の下にある数値は、標準偏回帰係数です。これは目的変数に及ぼす影響の大きさとして読み取れます。
重回帰分析では、各説明変数における目的変数への影響度をこのように具体的な数値で算出できるため、根拠あるデータとして提示しやすいメリットがあります。
単回帰分析との違い
単回帰分析も重回帰分析と同じで、回帰分析の一種です。
重回帰分析との違いは、説明変数の数にあります。 単回帰分析では説明変数・目的変数ともに、1つの変数を設定します。 よって以下のように、原因と結果が一対一で対応していると考えられる場合に活用されます。
- 身長から体重を予測する
- 駅からの距離で賃貸価格を予測する
重回帰分析をビジネスで利用する場面
重回帰分析は、主に以下2つの利用用途があります。
- 説明変数から結果を予測する
- 各説明変数がどのくらい目的変数に影響しているかを計る
重回帰分析は、結果の原因となる各変数の影響度を数値で示せることが大きな特徴です。 よってビジネスにおいては、主に後者の場合で用いられることが多いです。
利用場面1.説明変数から結果を予測
既存データが無かったり少なかったりするとき、重回帰分析を用いて「結果を説明変数から予測する」ことがあります。
◆重回帰係数を用いて結果を予測する例
目的変数 | 説明変数 |
---|---|
新店舗における売上予測 |
|
2021年度における顧客A社からの売上予測 |
|
各説明変数がどのくらい目的変数に影響しているかを計る
重回帰分析は「各説明変数が目的変数に対し、どのくらい影響しているのか」を測ることも可能です。 特にビジネスでは各要素の影響度を測るマーケティングリサーチの一環で、重回帰分析が利用されることがよくあります。
◆重回帰分析を用いて影響度を調べる例
目的変数 | 説明変数 |
---|---|
顧客の総合満足度 |
|
ブランドイメージ (レディスアパレルブランド) |
|
重回帰分析を行う前に気をつけるべき3つのポイント
重回帰分析を行う場合、いくつか事前に気をつけるべきポイントがあります。 分析の質を高めるためにも、以下の3点を押さえましょう。
◆重回帰分析で気をつけるべきポイント
- 重回帰分析で求めたい答えが導けるのか再考する
- 全ての変数を数値化する
- 分析に使用する説明係数を厳選する
ポイント1.重回帰分析で求めたい答えが導けるのか再考する
分析を行う前に、導き出したい結果がほんとうに重回帰分析で算出できるのかを考える必要があります。 重回帰分析はマーケティング等でよく使用される、多変量解析の一種です。多変量解析には主成分分析や判別分析などの分析方法があります。
それぞれの多変量解析は、説明変数と目的変数の種類や多変量解析を行う目的によって、以下のように分類されます。
重回帰分析は既存データから特定の結果を予測したり、結果に関係する項目の影響度を測定したりすることに長けています。 また使われる説明変数と目的変数がともに量的変数である必要があります。 使用するデータによっては、他の多変量分析が適している場合もあります。
なお量的変数と質的変数は以下の通りです。
- 量的変数
- 数や量で測れる変数(例:年齢や世帯人数、年収など)
- 質的変数
- 数や量で測れない変数(例:性別や職業、配偶者の有無など)
ポイント2.全ての変数を数値化する
重回帰分析では、量的変数を用いて分析を行います。 よってもしデータの中に質的変数が含まれていた場合、一旦数値化させる工程を踏まなければなりません。
質的変数の方が多いデータを取り扱う場合は、数値化するのに必要以上の労力がかかる可能性があります。 場合によっては別の多変量解析を活用した方が良い可能性もありますので、よく検討しましょう。
ポイント3.分析に使用する説明係数を厳選する
重回帰分析では複数の説明変数を活用し、目的変数の結果や目的変数への影響度を測ります。 したがって分析に活用する説明変数は、目的変数と相関性のある項目を選ぶ必要があります。
例えば、重回帰分析を用いて「チョコレート菓子Bにおける顧客満足度」を調査する場合、説明変数には価格や美味しさ、カカオ産地、味のバリエーション、購入方法の多様性などが考えられます。
しかしここで従業員数など目的変数と相関性が低そうな説明変数を設定すると、重回帰分析で導き出された結果の質が必然的に低くなります。
また使用する説明変数が多すぎると、適切な結果を得にくくなるため、説明変数の数にも注意を払う必要があります。 重回帰分析に使用する説明変数は、おおよそ5-7個が目安とされています。 結果と相関性が低すぎる説明変数や、多すぎる説明変数を使用し、重回帰分析の質を落とさないよう留意しましょう。
重回帰分析の方法・4ステップ
では実際に重回帰分析の方法を4ステップで解説します。 今回は新たに出店する飲食店の売上予測を行う例をするために、重回帰分析を行っていくと想定します。
ステップ1.目的変数と相関のある説明変数を抽出する
まず最初は説明変数の抽出から始めます。
今回は新規出店する飲食店の売上予測ですので、以下の説明変数が考えられます。 最初の段階では、出来るだけ多くの説明変数を選出するようにしましょう。
- 店舗面積
- 座席数
- 駅からの距離
- 商圏人口
- 半径15㎞圏内になある競合店舗数
- 広告宣伝費
- 通行量
- 店員数
- メニュー数
ステップ2.データを収集し、統計ソフトで重回帰分析を行う
説明変数が抽出できたら、必要なデータ収集を行います。 重回帰分析では説明変数が数値である必要があるため、もし質的データの場合は数値化しましょう。 収集したデータを統計ソフトを活用し、重回帰分析を行います。エクセルの分析ツールや、無料フリーウェア「R」がよく利用されています。 また学術・研究機関など、より高度な重回帰分析を行う場合には、有料ソフト「JMP」や「SPSS」も利用されています。
今回は候補となる説明変数を一つひとつ調整してデータ精度を高める「ステップワイズ法」を活用し、目的変数に影響を及ぼしている説明変数を探ります。 一回の重回帰分析で使う説明変数の個数は、多くても7個程度に留めるのが良いでしょう。
重回帰分析を行なった結果、新規出店する飲食店の売上予測は以下5つの説明変数を活用することが適切であることが判明しました。
- 店舗面積
- 座席数
- 駅からの距離
- 半径15㎞圏内になある競合店舗数
- 広告宣伝費
- 通行量
ステップ3.重回帰式に適用し、目的変数を算出する
説明変数が確定したら、実際に必要な数値を重回帰式に代入し、目的変数(結果)を算出します。 これまでの分析によって、以下のように説明変数と目的変数が算出されたとします。
重回帰式は以下の計算式で成り立っています。
- 重回帰式
- 目的変数=(偏回帰係数×説明変数1)+(偏回帰係数×説明変数2)+(偏回帰係数×説明変数3)+…+定数項
今回の重回帰分析を重回帰式に代入すると、以下の式が導き出せます。
新規店舗の売上予測 =(0.4×店舗面積)+(1.2×駅からの距離)+(0.84×半径15km圏内にある競合店舗数)+(0.52×広告宣伝費)+(1.03×通行量)+定数項
なお定数項とはy切片とも呼ばれ、どんな説明変数にも影響を受けない固定された値を指します。 今回の例では標準となる売上高のベースを表しています。
ステップ4.結果を施策に繋げる
重回帰式に式を代入すると、新規店舗の売上予測が把握できます。 また同時に新規店舗の売上に影響度の高い項目も算出できるため、プロモーションなどの施策を打つ上で参考になるでしょう。
まとめ
ここまで重回帰分析の概要から、ビジネスでの活用シーン、方法や注意点を解説しました。 重回帰分析は結果を数値で示せるため、根拠ある提案や施策が行いやすいメリットがあります。
そのため、売上予測やプロモーション戦略など、マーケティング領域でも多く用いられています。
ただし実際に重回帰分析をビジネスで活用する場合は、複雑な計算式が多用されるため、なかなか1から計算するのは骨が折れます。 よって多くの企業では、調査会社などに重回帰分析を依頼することがほとんどです。
ぜひ事業の成功率を高めるためにも、実務に重回帰分析を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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