【自主調査】日本のオンライン経済活動は習慣化するのか?今後のデジタル経済の進展とは
2023年06月29日
新型コロナウイルス感染拡大は、密を避ける外出抑制やオンライン消費の拡大など、消費者の行動に大きな影響を及ぼしました。特に、オンラインショッピングやモバイル決済は多くの方が利用するようになったのではないでしょうか。
GMOリサーチ&AIでは多数の海外調査を行っていますが、今回は日本と台湾を調査し比較しました。日本のオンライン経済活動の習慣の特徴を明らかにし、今後どのように利用状況が変化していくのか、を予想していきます。
コロナ禍で生じた消費者行動の変化
引用:経済産業省「ウィズコロナ以降の今後の 経済産業政策の在り方について」
感染症流行を受け、多くの企業が企業活動に影響を受けています。東京商工リサーチ株式会社が2021年3月に行った調査によると、「新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響」について、71.3%の企業が「影響が継続している」ことが明らかになりました。
とは言いつつも、影響を受けているのは企業に限りません。消費者の行動にも、2つの大きな変化が起こりました。
1.外出を避ける行動変化
2020年の感染症流行を契機に、政府が「不要不急の外出を控え、密な状況を作らない」「手洗い・うがい・屋内でのマスク着用など衛生対策を徹底する」ことを発表しました。本年3月にはマスク着用の緩和、5月には5類移行が決定するなど緩やかに日常が戻ってきているとはいえ、当時はメディアでも頻繁に行動抑制に関する話題が取り上げられていた様子は記憶に新しいのではないでしょうか。
引用:経済産業省「ウィズコロナ以降の今後の経済産業政策の在り方について」
経済産業省が発表した資料「ウィズコロナ以降の今後の経済産業政策の在り方について」によると、感染症が流行し始めた2020年4-6月のタイミングで、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業の売上高は大幅に下落したことが明らかになりました。
消費者が旅行や外食など、外出を伴う行動を控えたことで、外出が伴う産業(宿泊、飲食、娯楽関連)に大きな影響があったと想定されます。
引用:パーソル総合研究所「第七回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する調査」
感染症流行は、働き方にも影響を及ぼしました。
パーソル総合研究所の「第七回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する調査」によると、新型コロナウイルスが発生した時期(2020年3月)に13.2%だったテレワーク率は、1か月後の4月には27.9%まで増加していることが明らかになりました。
消費者が自身の外出を控えることはもちろん、企業としても、社員が外出を控えるような措置を推進していたことがわかります。
2.オンライン消費の拡大
引用:総務省「コロナ禍で加速するデジタル化」
感染症流行は、人々の消費行動にも変化を及ぼしました。
総務省の資料「コロナ禍で加速するデジタル化」によると、緊急事態宣言下で利用したサービスとして、インターネットショッピング(57.1%)、電子マネー(44.0%)、ネット動画配信(39.9%)が多く挙げられました。
オンラインのメリットとして、非対面や非接触で行えることが考えられます。買い物や支払いなど、家にいながら楽しめる消費行動は、感染症流行を契機に伸びたのではないでしょうか。
【自主調査結果】日本のオンライン経済活動は習慣化するのかー台湾と比較ー
ここまで、外出控えやオンライン消費の増加など、消費者の行動変化について取り上げてきました。
着々とコロナ前の状態に戻りつつある状況ですが、感染症流行を契機に活発化した日本のオンライン経済活動※は、今後も拡大・習慣化していくのでしょうか。
※インターネットを介して行われる経済活動のこと。オンラインショッピング、オンライン決済など
GMOリサーチ&AIでは、3つのオンラインサービスの利用状況に注目し、同じアジア圏の台湾と比較した調査を実施しました。本章では、調査結果とあわせて、今後の日本のデジタル経済展望について解説します。
▼3つのオンライン経済活動
1.オンラインショッピングの現状と今後
買い物方法の変化について日本と台湾で比較したところ、以下のような結果となりました。
▼過去6ヶ月以内に利用したショッピング方法の変化に関する日本と台湾の対比
オンラインショッピングの利用率については、日本と台湾それぞれが対前年比で大きな差はありませんでした。しかし、実店舗での購入に関しては異なる傾向を示しています。
日本の実店舗での購入は2021年が77%、2022年が86%と、9ポイント上昇しました。一方、台湾では前年比で6ポイントの減少となり、日本とは逆の傾向が見られます。
日本は感染状況が落ち着くにつれて、実店舗で商品を購入する人が戻ってきたようです。しかしオンラインショッピングの利用率に変動はありませんでした。このことから、日本はオンラインと実店舗を併用して活用する、ハイブリット型の買い物形式が定着していくのではないでしょうか。
また、オンラインではどのような商品が購入されているのかについて、あわせて調査しました。
▼オンラインショッピング商品ランキング
日本で最も多く購入されている商品は、「本、文房具、DVD」(39.7%)でした。また、「食品、飲料、食事券」、「衣類、小物」は日本と台湾の双方で多く購入されていることも明らかになりました。
「オンライン消費の拡大」で紹介した通り、緊急事態宣言下にてオンライン書籍やストリーミングを利用した方は39.9%と多い傾向が見られました。そのため、書籍やDVDの販売は、オンライン書籍サービスやストリーミングサービスの発展で需要が少なくなると考えた方もいるのではないでしょうか。
しかし、本ランキングで1位になっていることを踏まえると、気に入ったものは形が残る状態で手元に置いておきたい、実店舗に行かずに購入したい、という需要も一定数ありそうです。
また、食品や衣類など、生活必需品も上位にランクインしています。手にとって確かめて購入したいニーズはありつつも、家で買い物が完結するオンラインショッピングは今後も利用されるだろうと考えられます。
2.モバイル決済の現状と今後
次にモバイル決済の利用状況について日本と台湾で比較しました。
モバイル決済とは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末と連携し、クレジットカードや電子マネー決済を可能にするサービスを指します。
▼モバイル決済利用者の比較
モバイル決済については、台湾の利用率が日本を大きく上回っています。2022年の数値で比較すると、台湾では76.9%が利用しているのに対し、日本での利用は53.6%にとどまります。
日本と台湾、利用率が高いモバイル決済は以下の通りです。
▼実際に使われているモバイル決済サービス
日本で最も利用されているモバイル決済は「PayPay」で、2022年には71.2%の利用率となりました。ちなみに台湾では「LINE Pay」の利用率が高く、2022年には74.2%の利用率でした。
台湾で2番目に普及しているPX payは台湾の大手スーパー全聯福利中心(PXmart)が発行したもので、中高年に広く普及しています。全聯福利中心(PXmart)では、中高年のモバイル決済使用率を上げるために、顔馴染みの店員からアプリの利用を勧めるアプローチを行いました。その結果、モバイル決済に対する中高年消費者の心理的ハードルを下げることに成功し、普及が進んだそうです。
モバイル決済の利用場面についても、日本と台湾で差がみられました。
▼モバイル決済の利用場面
モバイル決済の利用場面で考えると、日本ではコンビニエンスストアやドラックストアなど主に実店舗での利用が多くなっています。一方、台湾では日本と同じスーパーマーケットやコンビニエンスストアでの利用はもちろん、公共料金の支払いやモバイルショッピングアプリ、個人間の送金など、多様な場面で利用する傾向が見られます。
日本のモバイル決済は、台湾と比較するとまだまだ電子マネーの普及や利用場所に関して、伸びしろがあるといえます。
例えば、どの世代でも支障なく導入できるような手立てを打ったり、公共サービスでも使えるモバイル決済サービスを広めたりといったアプローチを取ることで、より多くの人に普及するのではないでしょうか。
3.インターネット・バンキングの現状と今後
インターネット・バンキングとは、銀行の店舗やATMに行かなくてもインターネットでログインすることで口座の振込・残高照会・入出金明細・振替などを行うことができるサービスのことです。
最後にインターネット・バンキングの利用実態を比較してみましょう。
▼ネットバンキングサービスの利用実態
PC版のインターネットバンキング利用については、日本と台湾で大きな差は見られませんでした。しかし、スマートフォン版の利用に注目すると、日本の利用は35.6%に対し、台湾では70.3%が利用しており、およそ2倍の差が見られました。
また、日本では42.3%が「(インターネットバンキングを)利用していない」のに対し、台湾は17.6%と、そもそも利用しているかどうかの段階でも差が大きく開きました。台湾に比べ、日本のインターネットバンキング利用はまだまだ普及していないことが見て取れます。
▼ネット専業銀行口座開設に対する興味
さらに、ネット専業銀行口座開設について、日本では45.9%と約2人に1人が興味を持っていないこともわかりました。
▼ネット銀行口座を開設しない理由
口座開設に興味がない層の理由として、「これ以上必要ない」と理由に挙げる人が日本と台湾どちらも多いことが分かります。
台湾では導入を検討している人もいるのか、ネット専業銀行のセキュリティ、サービスに対する不安を理由に開設しない層もいるようです。一方、日本では「必要ない」という理由からネット銀行のサービスまで目を向けていない可能性が考えられます。
そのため、日本でインターネット・バンキングを普及させていくには、サービスの良さを宣伝する以前に、銀行口座を複数持つことの利点や、実店舗のある銀行からネット銀行に乗り換える場合の利点を示していくことが鍵になるのではないでしょうか。
オンライン市場で成功するための2つのヒント
引用:総務省「デジタル化の現状と課題」
総務省の資料「デジタル化の現状と課題」によると、「デジタル化の進展によって今後の日本社会が良くなるか」という質問に対して、「今より明るくなる」と答えたのが全体で36.8%と、デジタル化への期待は高い傾向にあることが分かります。
しかし、期待の反面に不安や課題を感じている人がいるのも事実です。コロナ禍を契機に拡大したデジタル経済、オンライン市場をより発展させていくには、何に留意すべきでしょうか。
1.個人情報の扱い方を明確に示す
引用:総務省「デジタル化の現状と課題」
情報化社会が進んでいるとはいえ、パーソナルデータの提供に不安感を抱く方も一定数います。総務省「デジタル化の現状と課題」によると、日本でパーソナル・データの提供に不安を感じる消費者は、多くが以下の理由を挙げています。
▼パーソナルデータの提供に不安を感じる理由
- 提供したデータが外部に流出するかもしれないこと
- 自分のプライバシーが保護されるかわからないこと
- 提供したデータが誰に提供されるかわからないこと など
オンラインショッピングやネットバンキングでは、氏名や住所、購入履歴、クレジットカード番号など個人情報を多く取り扱います。利用目的や管理体制を徹底し示すことで、消費者の安心感を高めることができ、オンライン経済活動へのハードルも下がるのではないでしょうか。
2.ターゲットにあわせた普及活動や支援を行う
少子高齢化の進む日本では、高齢者の存在は無視することができません。
引用:総務省「デジタル化の現状と課題」
総務省の「デジタル化の現状と課題」によると、スマートフォンやタブレットを利用していない人の割合は50代で6.2%、60代で18.8%、70歳以上で49.8%と、年代別の利用率を見ると、顕著な差があることが明らかになりました。
引用:総務省「 デジタル化の現状と課題」
また、同様の調査によると、70歳以上がスマートフォンやタブレットを利用していない理由として、「自分の生活に必要ない」(52.3%)、「使い方がわからない」(42.4%)との理由を多く挙げています。
世代を問わずオンライン経済活動を活発化させたいのであれば、特に高齢者には生活の利便性が高まることを発信していくとよいのではないでしょうか。先述した、台湾でのモバイル決済普及は、心理的ハードルを下げるアプローチが有効打となりました。この事例は、日本での対策にも活かせる部分がありそうです。
とはいえ、「ワンクリック詐欺」や「なりすましメール」など、情報リテラシーの低い高齢者にとって脅威となる要素があるのも事実です。利便性や使い方を伝えつつも、リテラシーの支援も行うことで、安心して活用できるようになるのではないでしょうか。
まとめ|消費者への働きかけで、オンライン経済活動はより活発になる
ここまでオンライン経済活動の習慣について、日本と台湾の調査結果と照らし合わせながら、オンライン経済活動の習慣がどのように変化していくかを説明してきました。
ネットショッピングならではの導線を活かしたり「個人情報の扱い方を明確に示す」「ターゲットにあわせた普及活動や支援を行う」といった点に留意しておけば、今後もオンライン経済活動は拡大していくのではないでしょうか。
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調査概要
詳細:オンライン経済活動の習慣 2022年 日本と台湾の比較
調査方法:Z.com Engagement Labでオンラインアンケート
調査期間:2023年2月、3月、9月及び、10月
有効回答:日本761件、台湾914件
調査対象:18~60 歳の日本と台湾の国民
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