プロダクトポートフォリオマネジメントとは?メリットや企業の分析事例を解説
2022年09月30日
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは、自社の経営資源を適切に分配する戦略を策定する手法です。自社の事業を「花形・金のなる木・問題児・負け犬」の4象限に分類することで、現状や将来性を考慮して適切な投資や撤退判断を行えます。今回の記事では、PPMのメリットや事業の流れ、企業の分析事例を解説します。
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは、自社が保有する経営資源(ヒト・モノ・カネ)を、事業へ適切に分配する方向性を決める方法です。プロダクトポートフォリオマネジメントは、1970年代にボストン・コンサルティング・グループによって提唱されました。
企業が活用できる予算には限りがあるため、自社が抱えるすべての事業に対して、平等に経営資源を分配することはできません。プロダクトポートフォリオマネジメントを用いることで、自社の各事業における利益の大きさや将来性などを比較し「経営資源を投下すべき分野」「撤退すべき分野」の適切な判断が可能となります。
プロダクトポートフォリオマネジメントでは、以下のように「縦軸:市場成長性」「横軸:市場シェア」の2軸を引いて4象限に分類します。
分類した4象限(花形・金のなる木・問題児・負け犬)に自社の各事業を当てはめ、利益の大きさや将来性などの状況を判断し、適切な投資・撤退判断を実行します。
マトリックス(関連する情報を縦軸・横軸に図示し相関関係などを把握するための図表)上におけるバブルチャート(縦軸・横軸・円の大きさによってデータを表現するグラフ)の大きさは、各事業の売り上げ規模を表現することが一般的です。
プロダクトポートフォリオマネジメントの4象限
プロダクトポートフォリオマネジメントの4象限では、各事業における「市場成長性」「市場シェア」を表現しています。
象限ごとに成長性とシェアを把握し、状況に応じて投資や撤退判断を実行することが重要です。
花形(スター)
市場の成長性・市場シェアがともに高い事業
花形に該当する事業は、成長率・シェアがともに高いポジションに該当しています。成長率が高いうえにシェアも占めているため、さらなる売り上げの増加が見込めます。
ただし、花形は市場の成長性が高いため、参入している競合企業が多数あります。競合他社より売り上げを伸ばすためには、積極的な設備投資や人件費の投入が必要となります。
競合他社に打ち勝ち市場シェアを伸ばすことで、将来的に「金のなる木(後述)」のポジションを狙えるでしょう。
金のなる木
市場の成長性は低いが、市場シェアは高い事業
金のなる木に該当する事業は、自社のシェアが高い反面、市場の成長性が低いポジションに該当します。
自社がシェアを確保しているうえに市場の成長性も低いため、競合企業の参入は困難であり、高い売り上げが期待できます。競合他社が参入しないため、積極的に投資しなくても継続的に利益を生み出せる事業といえます。
積極的な事業投資が不要であることから、資金流出を低く抑えつつ、利益の増加が見込めるため、事業経営において要となりうる存在です。
金のなる木で安定的に利益を増やし、生み出した資金を「花形」「問題児」へ投資することで、事業の成長スピードを加速させることが可能となります。
問題児
市場の成長性は高いが、市場シェアは低い事業
問題児に該当する事業は、市場の成長性自体は高いですが自社のシェアが低いため、現状において売り上げの増大が期待できません。
ただし、市場の成長性自体は高いため、積極的な投資を実行し自社のシェアを伸ばすことで「花形」へと成長できる見込みがあります。一般的に、「金のなる木」で生み出した利益を、問題児に該当する事業へ投資して成長させていきます。
負け犬
市場の成長性・市場シェアともに低い事業
負け犬に該当する事業は、成長性・自社のシェアがともに低いため利益を生み出すことが困難です。利益を生み出せない事業は経営面において足枷となるため、事業自体の継続可否を判断する必要があります。
必要に応じて早期に事業撤退を決断し、余剰資金を「花形」「問題児」に該当する事業へ投資することが重要です。
プロダクトポートフォリオマネジメントの分析に必要な計算式
プロダクトポートフォリオマネジメントの縦軸および横軸は、以下の計算式で算出できます。
縦軸:市場成長率
「市場成長率」とは、前年度と今年度の市場規模を比較してどれほど成長しているかを表している言葉です。
各業界における市場規模のデータは、公的機関が発表している信頼性の高いデータを活用することが理想です。活用できる公的機関のサイトとしては、以下が挙げられます。
- 経済産業省:工業統計調査
- 財務総研:法人企業統計調査
横軸:相対的市場シェア
「相対的市場シェア」とは、業界トップの競合会社が占めるシェア率に対して、自社が占めるシェア率を指しています。
相対的市場シェアを算出する際は、最初に「絶対的市場シェア(競合を考慮せず自社が個別に占有している市場シェア率)」を求めることが必要です。
↓
相対的市場シェア=自社の絶対的市場シェア÷業界トップ他社の絶対的市場シェア
例えば、業界トップ企業の絶対的市場シェアが40%・自社の絶対的市場シェアが10%の場合、相対的市場シェアは「0.1÷0.4=0.25」となります。
プロダクトポートフォリオマネジメントにおける事業成長の流れ
プロダクトポートフォリオマネジメントにおける事業成長としては、「成長性が高い ”問題児” に投資して ”花形” へと押し上げる」という流れが理想です。
問題児から成長した花形の収益性が安定し、市場シェアを獲得することで、金のなる木に移行できます。金のなる木に移行することで新たな資金を獲得できた場合、その資金を別の「問題児」「花形」へ投資し、さらなる成長が期待できます。
プロダクトポートフォリオマネジメントのメリット
プロダクトポートフォリオマネジメントによって各事業を4象限に分類して分析することには、以下のメリットがあります。
- 競合との立ち位置を確認し、施策に活かせる
- 自社の事業やサービスを客観視できる
- 事業の将来性を考慮し、投資・撤退判断を実行できる
競合との立ち位置を確認し、施策に活かせる
プロダクトポートフォリオマネジメントでは、市場における自社事業のポジションを確認できるため、競合企業との位置関係を把握できます。
競合企業との位置関係を把握することで、自社の売り上げを伸ばし、シェア拡大に必要な要素を洗い出せるため、マーケティング施策の策定に活用できます。
自社の事業やサービスを客観視できる
自社の事業に対する投資や撤退判断を客観的に実施するのは簡単ではありません。例えば莫大な初期費用をかけた事業の場合、感情的に「投資した資金分は回収したい」という考えが働き、撤退すべきタイミングで、撤退できないおそれがあります。
特に開始直後の事業は売り上げが伸びにくいため、「そもそも将来性がない」「製品の質が低い」「まだ浸透しきっていない」などの判断を行う材料が揃っていません。
プロダクトポートフォリオマネジメントでは「市場の成長性」「市場シェア」という明確な2軸を指標にして可視化できるため、客観的な基準をもとに投資や撤退の判断を実行できます。
事業の将来性を考慮し、投資・撤退判断を実行できる
上記で解説したとおり、プロダクトポートフォリオマネジメントでは自社の各事業を4象限に当てはめて将来性を把握するため、投資や撤退の判断を下しやすいのが特徴です。
企業が持つ経営資源は限られているため、各事業の将来性を正確に把握したうえで「成長が見込める事業に投資して縮小している事業は撤退する」という判断を適切に実施することが欠かせません。
プロダクトポートフォリオマネジメントを活用することで、適切なタイミングでの投資・撤退の判断が可能となります。
プロダクトポートフォリオマネジメントのデメリット
プロダクトポートフォリオマネジメントは事業の投資や撤退判断を実施する際に有用ですが、以下の点に注意する必要があります。
- 革新的な技術を持つ事業が生まれにくい
- 事業同士の相乗効果は考慮されない
- 経営資源を投入しても必ず成長するとは限らない
革新的な技術を持つ事業が生まれにくい
プロダクトポートフォリオマネジメントでは「現時点」における商品やサービスの成長性・シェア率をもとに事業を分析します。活用するデータはあくまでも「現時点」に限られるため、投資や撤退判断を実行する際に、将来的な可能性の部分まで考慮できません。
例えば「現時点のシェア率が低く、利益が見込めないので撤退する」と判断した場合、革新的な技術開発によって一気に市場シェアを逆転させる可能性を含んでいたとしても、チャンスを見逃すことにつながります。
事業同士の相乗効果は考慮されない
プロダクトポートフォリオマネジメントでは、各事業の成長性やシェア率を「単体」で確認したうえで、撤退判断を決定します。事業単位で撤退判断が決まるため、事業同士が相互に絡み合い利益を生み出すケースは考慮されません。
例えば、ゲーム会社の場合「ゲーム機の販売事業単体は赤字だがソフトで利益を生み出している」というケースが存在します。もし「ゲーム機の販売事業は赤字だから撤退」という判断をした場合、ソフト自体の売り上げにも影響を与えかねません。消費者の視点から考えると、ゲーム機がなければソフトを購入しても意味がないため、ソフト購入者が減少します。
上記の例のように、プロダクトポートフォリオマネジメントだけに頼って撤退判断を行うと、「ソフト販売」という黒字事業を手放すことになる可能性があります。
プロダクトポートフォリオマネジメントを活用し、撤退判断をするときは、黒字事業に影響を与えないよう、事業間の関係性も考慮したうえで実施することが重要です。
経営資源を投入しても必ず成長するとは限らない
プロダクトポートフォリオマネジメントでは、経験曲線や規模の経済の考え方に基づいて事業の投資や撤退を判断しています。
- 経験曲線
- 生産量の増加に伴い単位当たりのコストが一定の割合で低下するという考え方
- 規模の経済
- 事業規模が成長するほど単位当たりのコストが小さくなるという考え方
ただし、経験曲線などの考え方はあくまでも理論に過ぎないため、プロダクトポートフォリオマネジメントの分析結果の通りにシェア率や市場が成長するわけではありません。
例えば「競合が技術革新を用いた製品を開発した」という場合、自社が市場トップシェアを誇っていても逆転される可能性があります。シェア率が逆転した場合、今まで実施していた「金のなる木で生み出した利益を問題児の事業に投資する」という施策が難しくなるでしょう。
エクセルを用いたバブルチャートの作り方
プロダクトポートフォリオマネジメントの4象限は、バブルチャートを用いて作成できます。バブルチャートは、エクセルで簡単に作成できます。今回は、エクセルを用いたバブルチャートの作り方を紹介します。
- データをエクセルの表でまとめる
- エクセルのタブからバブルチャートを選択する
1.データをエクセルの表でまとめる
バブルチャート作成に必要なデータをエクセルでまとめます。
今回は、「相対的市場シェア・市場成長率・各事業の売上高」を仮の数値として記入しました。
2.エクセルのタブからバブルチャートを選択する
エクセルのタブから「挿入(図1)→おすすめグラフ(図2)→バブル(図3)」の順番で選択してグラフを作成します。
グラフ範囲を選択し、【挿入>おすすめグラフ>バブル】の順に選択すると、バブルチャートの作成が可能です。(下記写真参照)
上記でバブルチャートを選択すると、下図のようなグラフが表れます。作成したグラフに、名称や4象限に分類する線を挿入することで、バブルチャートが完成します。
今回の例において、4つの事業を分類すると以下のようになります。
プロダクトポートフォリオマネジメントにおける日用品販売企業の事例
大手日用品販売企業A社におけるある年度の製品群を、プロダクトポートフォリオマネジメントを用いて分類すると以下のようになります。
各象限の分析結果は以下の通りです。
A社は1960年代に他社に先駆けて住居用洗剤を開発しており、ある年度においては「住居・家具用洗剤」の市場においてシェア5割という高い市場シェアを占めています。
加えて「シャンプー」の市場においても、独自技術を活かして発売した商品がわずか1年で売上100億円を達成し、シェア3%を達成すれば成功といわれるシャンプー分野においてシェア7%という高い実績を収めています。
「粉末衣料合成洗剤」分野においては、当時市場が飽和しつつあった中で、主流であった大箱洗剤にかわるコンパクト洗剤を販売したことにより市場シェアを高めることに成功しました。
A社の「ベビー向け紙おむつ」は、競合と比較して後発の販売でした。既に競合が高いシェアを獲得している中で、より高い市場シェアを占められていませんでした。
A社の「男性用化粧品」は、市場シェアが15%ほどしか占められておらず、競合のシェアが高い状況でした。ただし、時代の変遷と企業の変化次第では、今後「金のなる木」になる可能性もあると考えられます。
まとめ
プロダクトポートフォリオマネジメントは、経営資源の分配割合を適切に判断するための手法です。各事業を「花形・金のなる木・問題児・負け犬」の4象限に分類することで、市場の成長性・市場シェアを考慮した投資や撤退判断が可能となります。
ただしあくまでも理論値のため、マーケティング上で活用する際は、実際の市場の流れや競合の開発状況などを考慮し、柔軟に投資や撤退判断を実行することが必要です。
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