学術調査(アカデミックリサーチ)の進め方:事例から学ぶ調査設計のポイント

2025年03月24日

学術調査(アカデミックリサーチ)の進め方:事例から学ぶ調査設計のポイント

学術調査(アカデミックリサーチ)は、研究活動の基盤となる重要なプロセスです。近年、デジタル技術の発展により調査手法は多様化し、特にネットリサーチの活用が進んでいます。

本記事では、学術調査の基礎から具体的な実施方法まで、実例を交えながら解説します。研究者や教育機関の方々に向けて、効果的な調査設計のポイントをお伝えします。

学術調査の基本

学術調査は、研究活動において客観的なデータを収集・分析するための重要な手法です。近年では従来の対面調査や紙ベースの手法に加え、デジタルを活用した新しい調査方法も確立されています。ここでは、学術調査の基本的な考え方から、具体的な活用事例までを紹介します。

学術調査の定義と研究における役割

学術調査は、研究者や教育機関が学術研究や論文執筆を目的として行う調査活動です。研究テーマに関する客観的なデータを収集・分析し、仮説の検証や新たな知見の発見を目指します。

研究の信頼性と妥当性を確保するため、科学的な手法に基づいた調査設計が求められます。

学術調査の種類と活用シーン

学術調査には、量的調査と質的調査の大きく2つのアプローチがあります。

量的調査では、アンケート調査やネットリサーチを通じて統計的なデータを収集します。例えば、消費者行動研究や社会調査などで活用されています。

質的調査では、インタビューやフィールドワークを通じて詳細な情報を収集します。心理学研究や文化人類学などの分野で重要な役割を果たしています。

研究知と実践知の効果的な活用法

学術調査では、既存の研究から得られる「研究知」と、実務経験から得られる「実践知」の両方を活用することが重要です。

研究知は、先行研究のレビューや学術的な理論を通じて得られます。一方、実践知は現場での経験や具体的な事例から獲得します。

両者を効果的に組み合わせることで、より深い洞察と実用的な知見を得ることができます。

事例に見る学術調査の進め方

学術調査の実例として、東京大学大学院教育学研究科による「教育と仕事に関する全国調査」を紹介します。

この調査は、日本社会における教育体験と職業、社会格差の関連性を解明することを目指しました。これまでの研究では、教育をテーマとする調査では仕事や経済状況の把握が不十分であり、逆に仕事や経済状況の調査では教育に関する情報が十分ではないという課題がありました。

そこで、教育体験と職業および社会格差との関連を両面から詳しく調べることで、従来のデータではうまく解明できなかった教育と社会の関係を分析し、今後の教育政策に有効な提言を行うために調査が実施されることとなりました。

調査では、全国の30歳から64歳までの4,800名を対象に、無作為抽出法による大規模な調査を実施。住民基本台帳から系統抽出した対象者に対して、郵送留置法と一部郵送法を組み合わせた手法でデータを収集しました。

調査の結果、2,893件の有効回答を得て、回収率60.3%を達成。全国調査としては極めて良好な回収状況となり、信頼性の高いデータを獲得することに成功しました。

この事例は、明確な研究目的と課題の設定、それらに基づく調査設計、適切な対象者の抽出方法、効果的なデータ収集手法の選択が、学術調査の成功に不可欠であることを示しています。

 参考:東京大学大学院教育学研究科・教育学部 中村高康研究室ウェブサイト

ネットリサーチを活用した学術調査

インターネットの普及に伴い、学術調査においてもネットリサーチの活用が進んでいます。従来の紙ベースや対面での調査と比較して、効率的なデータ収集と分析が可能となり、研究の質を高める重要なツールとなっています。

学術調査におけるネットリサーチの重要性

ネットリサーチは、学術調査の手法として確固たる地位を確立しています。特に大規模なサンプル収集が必要な研究では、コストと時間の効率化を実現する重要な手段となっています。

総務省の「令和5年版 情報通信白書」によれば、60~69歳の世代においても約8割がインターネットを利用しており、以前と比べて幅広い年齢層への調査が可能です。

また、地理的な制約を受けにくいため、全国規模の調査や国際比較研究においても効果的です。

ネットリサーチのメリット

コスト面では、調査票の印刷や郵送、会場設営などの経費が不要となり、大幅な削減が可能です。

スピードの面では、アンケートの一斉配信と即時回収により、調査期間を大幅に短縮できます。例えば、配信翌日には回答データの収集が完了することも可能です。
サンプル数においても、従来の紙ベース調査では困難だった数千件規模のデータ収集が実現可能です。

さらに、回答データがデジタル形式で収集されるため、集計や分析の効率化も図れます。

ネットリサーチの注意点

一方で、インターネットを利用していない層へのアプローチが難しいという制約があります。
また、報酬目的での不適切な回答や、同一人物による重複回答などのリスクも存在します。そのため、回答データの品質管理や不正回答の検出など、適切な対策が必要です。

消費者パネルの重要性と選定基準

質の高い学術調査を実現するためには、信頼性の高いモニターパネルの選定が重要です。
以下の点を重視して選定を行います。

  • パネルの規模
  • 属性情報の詳細度(年齢、性別、職業、居住地など)
  • データクリーニングの徹底度
  • 不正回答対策の有無

特に、希少な属性を持つ対象者への調査では、十分な規模のパネルを持つ調査会社の選定が成否を分けます。

事例から学ぶ調査設計の実践ポイント

ポイント

学術調査の成否は、適切な調査設計にかかっています。研究目的の明確化から、アンケートの作成、データの品質管理まで、それぞれの段階で重要なポイントがあります。ここでは、実践的な調査設計の方法を解説します。

研究目的に応じた調査設計

研究目的は調査設計の土台となるため、具体的かつ明確な設定が必要です。調査で解明したい課題、必要なサンプル数と属性、予算と時間的制約、期待される成果など、計画段階での綿密な検討が重要です。

例えば、「大学生の就職活動に関する実態調査」であれば、地域や大学の種別、学年などの調査範囲を具体的に設定します。調査対象を明確にすることで、より精度の高い分析が可能になります。

設計段階で研究の方向性を明確にすることで、後工程でのブレを防ぎ、効率的な調査の実施につながります。

効果的なアンケート設計方法

アンケートの質問設計では、まず回答者の負担を考慮することが重要です。質問数は10問程度、回答時間は5-10分程度を目安とし、簡潔で分かりやすい設問を心がけます。

また、質問の順序効果には注意が必要です。前の質問が後の質問に影響を与える「キャリーオーバー効果」は避けるべき重要な課題です。例えば、企業イメージを問う前に、その企業の社会貢献活動について触れることで、回答が歪む可能性があります。

さらに、1つの質問で複数の内容を問う「ダブルバーレル」も避けます。「商品の価格と品質に満足していますか?」という質問は、価格と品質それぞれについて別々に尋ねる必要があります。

回答選択肢の設計では、リッカート尺度(件法尺度)の活用が効果的です。これは「全くそう思わない」から「非常にそう思う」までの段階的な選択肢を設け、回答者の意見や態度を数値化できます。一般的には5件法(5段階)が多用されますが、より細かな測定が必要な場合は7件法や8件法を採用します。例えば、8件法では「1:全くあてはまらない」から「8:必ずあてはまる」まで、より詳細な心理状態や意見を測定できます。

データの品質管理と信頼性

データの品質確保は、学術調査の信頼性を担保する重要な要素です。不正回答の検出と排除、回答の一貫性チェック、データクリーニングなど、複数の観点からの検証が必要です。

特に、ネットリサーチでは、不正回答検出システムの導入や、データクリーニングの二重チェック体制の構築が有効です。また、調査結果の信頼性を高めるため、適切なサンプルサイズの確保や回答者属性の偏りチェックなども欠かせません。

これらの品質管理プロセスを通じて、研究の基盤となる信頼性の高いデータを確保することができます。

学術調査における倫理的配慮

人を対象とする学術調査では、研究の科学的価値と同様に、倫理的な配慮が不可欠です。調査対象者の権利や安全を守り、研究の信頼性を確保するため、適切な倫理的配慮と手続きが求められます。

倫理審査の重要性と準備

人を対象とする研究では、所属機関の倫理審査委員会による承認が必要です。倫理審査では、研究目的の妥当性、対象者の権利保護、データの管理方法など、多岐にわたる確認が行われます。

審査に向けては、研究計画書、調査票、同意書などの書類を準備します。特に、研究の社会的意義と対象者への負担のバランスを明確に示すことが重要です。

倫理審査の経験豊富な調査会社と連携することで、必要書類の作成やプロセス設計を円滑に進めることができます。

個人情報保護とデータ管理

個人情報の取り扱いは、研究倫理の重要な要素です。データの収集から保管、破棄に至るまで、適切な管理体制の構築が求められます。

まず、対象者の匿名性確保が最重要です。個人を特定できる情報は調査IDに置き換え、回答データと個人情報を分離して管理します。センシティブな質問項目を含む場合は、より厳格な処理が必要です。

データの保管では、ファイルの暗号化やパスワード保護、サーバーのセキュリティ対策を実施します。研究チーム内でも、アクセス権限を必要最小限の担当者に制限し、ログを記録します。

研究終了後は、定められた保管期限に従い、データを完全に消去します。紙媒体の資料は、シュレッダー処理など、復元不可能な方法で破棄することが重要です。

調査対象者への配慮事項

調査対象者の心理的・身体的負担を最小限に抑えることが重要です。研究の目的や方法を分かりやすく説明し、自由意思による参加を保証します。

調査開始時には、所要時間や中断の権利について明確に伝えます。また、センシティブな質問を含む場合は、その必要性について十分な説明が必要です。

同意の撤回に備えて、データ削除のプロセスも事前に確立しておくことが重要です。

学術調査の実施方法の選択

選択

学術調査を成功に導くためには、調査の規模や目的に応じて適切な実施方法を選択することが重要です。専門の調査会社に依頼する方法と、セルフ型アンケートツールを活用する方法、それぞれの特徴を理解し、研究目的に合った選択をする必要があります。

専門調査会社への依頼のメリット

専門調査会社への依頼は、豊富な経験と専門知識を活用できる利点があります。調査企画の作成から、アンケート設計、データ集計まで、専任のリサーチャーが一貫してサポートを提供します。

また、多様な調査手法に対応できることも大きな利点です。

  • 定量調査:オンラインアンケート、電話調査、郵送調査など
  • 定性調査:フォーカスグループインタビュー、デプスインタビュー、エスノグラフィー調査など

特に、大規模な調査や複雑な調査ロジックが必要な場合には、専門家のサポートが調査の成功を左右します。調査会社の持つモニターパネルを活用することで、希少な属性を持つ対象者へのアプローチや同一対象者に継続的に調査を行う追跡調査なども可能になります。

ただし、調査会社への依頼は調査規模やサポートに応じたコストとなるため、事前の予算確認が必要です。また、納期についても数週間〜数ヶ月を見込む必要があります。

セルフ型アンケートツールの活用

セルフ型アンケートツールは、低コストで調査を実施できる手法です。調査画面の作成から配信、集計までを自身で行うことができます。

調査設計やアンケート画面を自分で調整できるため、細かな変更にも柔軟に対応できます。また、コストを抑えられることから、予備調査や小規模な研究に適しています。

一方で、アンケート作成やデータ集計などを自身で行う必要があり、時間と労力を要します。また、性年代以外の属性に基づくサンプル割付が難しいなどの制約もあります。

調査会社選定のポイント

調査会社を選ぶ際は、学術調査の経験や、研究テーマに関連する調査実績の有無を確認することが重要です。

モニターパネルの規模と品質も重要な選定基準です。年齢層、性別、居住地、趣味などの属性情報が調査とマッチしているか、不正回答を防ぐためのデータクリーニング体制が整っているかなどを確認します。

また、Webアンケート機能のカスタマイズ性や、研究目的に応じた柔軟な対応が可能かどうかも、選定の重要なポイントとなります。

学術調査の成果を最大化するために

学術調査の成果は、適切なデータ収集と分析手法の選択にかかっています。特に近年は、AIを活用した不正回答の検出や、高度なデータクリーニング技術の導入により、より信頼性の高い調査の実現が可能となっています。

GMOリサーチ&AIは、年間800件以上の学術調査実績を持ち、世界130カ国以上でネットリサーチを実施することができます。大規模調査から特定属性への調査まで、研究ニーズに応じた柔軟な対応が可能です。また、外部アンケートシステムとの連携により、研究者が使い慣れたツールでの調査実施をサポートしています。

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