マーケットシェアとは?メリットやクープマン目標値、調査上の注意点を解説
2022年05月06日
マーケットシェアとは、市場における商品やサービスが占める割合を意味しており、新規事業への参入や新商品の開発、既存サービスの見直しなどする際に活用されます。
算出したマーケットシェアとクープマン目標値を参照することで、自社や他社が市場でどのような立ち位置にいるかも把握できます。
この記事ではマーケットシェアの概要から、目標値である「クープマン目標値」、活用方法を中心に解説します。
マーケットシェアとは
マーケットシェアとは、特定の市場において自社の商品やサービス等が占める割合を指します。市場占有率、市場シェアといわれることもあります。
マーケットシェアを算出する際は、商品やサービスの売上金額を使用するのが一般的です。
企業のマーケティング戦略においては、マーケットシェアをもとに、販売数量や出荷数量を目標数値として設定するケースが多いでしょう。
マーケットシェアは絶対的市場シェア率と相対的市場シェア率に分かれます。
絶対的市場シェア率
絶対的市場シェア率とは、自社の商品やサービスが市場の売上に対して、どの程度の割合を占めているかを示す数値を指します。
市場全体の売上をどのように定義するかによって見方が変わり、調査目的に合わせて活用できるのが特徴です。
例えば自社製品である烏龍茶Aのマーケットシェアを調べる際、市場を烏龍茶もしくはお茶と設定しても良いですし、飲料品にまで市場を広げて調べることもできます。
あるいは「東京都在住・40代既婚男性」のように、ペルソナに合わせて地域や年齢などを限定した売上から、マーケットシェアを計算することも可能です。
絶対的市場シェア率の具体的な計算方法は、以下の通りです。
【計算方法】絶対的市場シェア率 = 自社の商品・サービスの売り上げ ÷ 市場全体の売り上げ
自社のA商品の売上が1,000万円、市場の総売上高が1億円のとき、A商品における絶対的市場シェア率は10%になります。
相対的市場シェア率
相対的市場シェア率とは、競合他社のシェア率を対象に算出される数値で、自社の商品やサービスとの比較を行う際に活用するものです。
相対的市場シェア率は、シェア1位の企業と比較する際に活用される場合が多いです。具体的な計算方法は、以下の通りです。
【計算方法】相対的市場シェア率 = 自社の商品・サービスの絶対的市場シェア率 ÷ 競合他社の商品・サービスの絶対的市場シェア率
例えば自社のA商品における絶対的市場シェア率が10%、B商品(シェア1位)の絶対的市場シェア率が50%である場合、A商品の相対的市場シェア率は20%になります。
マーケットシェアを把握するメリット3つ
マーケットシェアを把握する具体的なメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
- 自社の立ち位置が確認できる
- 競合他社との差を把握できる
- 新規市場への参入を検討するときに活用できる
自社の立ち位置が確認できる
マーケットシェアを把握することで、対象の市場における影響力が数値として可視化され、現状の自社の立ち位置が確認できます。
自社の商品やサービスのマーケットシェアによって、企業として進めていくべき戦略が大きく変わるため、マーケティング戦略においても重要視されています。
競合他社との差を把握できる
競合他社との差から、自社に不足している要素を把握できる点もメリットとして挙げられます。
特に相対的市場シェア率の把握は、ベンチマークしている企業との差を明確にするため、商品やサービスの改良や競争戦略を検討において重要な指標になります。
新規市場への参入を検討するときに活用できる
マーケットシェアの把握は、新規事業の参入を検討する際にも役立ちます。
参入を検討する市場内のシェア率の状況や、競合他社の数などから自社のアプローチについて検討ができ、場合によっては参入そのものの価値を判断することも可能です。
マーケットシェアの目標値「クープマン目標値」
ランチェスターの法則を研究したアメリカの数学者B.O.クープマンによる「ランチェスター戦略モデル式」の市場シェア理論を、コンサルタントの田岡信夫と社会統計学者の斧田太公望が解析し、導き出した市場シェアの目標数値。
クープマン目標値は、市場における自社商品・サービスの立ち位置を判断する際の指針として活用できます。
【クープマン目標値】目標値の名称 | シェア率 |
---|---|
独占市場シェア(上限目標値) | 73.9% |
相対的安定シェア(安定目標) | 41.7% |
市場影響シェア(下限目標値) | 26.1% |
並列的上位シェア | 19.3% |
市場的認知シェア(影響目標値) | 10.9% |
市場的存在シェア(存在目標値) | 6.8% |
市場橋頭堡シェア | 2.8% |
ここからはそれぞれの区分について、想定される具体的なシェアの状況を解説します。
【目標値1】独占的市場シェア(上限目標値)
独占的寡占型とも呼ばれる独占的市場シェアは、シェア率が73.9%を超えている状態を指します。
2番手に位置する企業と合わせてシェア率が73.9%を超えている場合は、二大寡占市場と呼ばれます。
独占的市場シェアに位置する企業は優位独占の状態で、業界をコントロールできる立ち位置にあり、短期間でトップが他社と入れ替わる現象が起きにくい状況です。
ただし独占的市場シェアに位置する企業は独占禁止法により、政府による何らかの規制がかかる恐れがあるため注意が必要です。
【目標値2】相対的安定シェア(安定目標値)
相対的安定シェアは、安定目標値とも呼ばれ、シェア率41.7%を超えている状態を指します。
「シェア率40%」は多くの企業で安定的トップシェア目標としてよく挙げられる数値です。
また実質3社で争っている場合は、41.7%を超えると優位な立場となり、業界トップシェア企業として安定感のある事業展開ができるようになります。
【目標値3】市場影響シェア(下限目標値)
市場影響シェアとは、シェア率が26.1%以上ある状態を指します。
市場影響シェアを有する企業は、競争状況からは1つ抜け、市場に影響を与える立場として考えられています。
他社に対する十分な影響力を有し、業界によってはトップに位置できるシェア率だといえます。
下限目標値を達成している場合、自社の動きに対して他社が同調する動きが見られる場合があり、十分他社に影響を与える存在だといえます。
【目標値4】並列的上位シェア
並列的上位シェアとは、シェア率が19.3%以上ある状態を指します。
シェア1位の企業が19.3%である場合、複数の企業が拮抗している状況で、どの企業も安定したトップ企業の位置を確立できていない状態です。
仮に現時点で自社のシェア率が並列的上位シェアに該当する場合、競合他社よりも先に市場影響シェア(26.1%)を達成するのが目標となります。
【目標値5】市場的認知シェア(影響目標値)
市場的認知シェアとは、シェア率が10.9%以上ある状態を指します。
影響目標値とも呼ばれる市場的認知シェアは、顧客から認知され、競合他社からも認識されていることを示す目安数値です。
影響目標値を下回っている場合は、生活者や競合他社からほとんど知られていない状況といっても良いでしょう。
【目標値6】市場的存在シェア(存在目標値)
市場的存在シェアとは、シェア率が6.8%以上である状態を指します。
存在目標値とも呼ばれ、市場で存在が許される目安の数値です。
仮にシェア率が存在目標値以下であった場合は、市場からの撤退や企業の倒産リスクについて検討する必要があるといえます。
【目標値7】市場橋頭堡シェア
市場橋頭堡シェアとは、シェア率が2.8%以上ある状態を指します。
橋頭堡(きょうとうほ)とは「進出への足がかり」を意味しており、競合他社の競争相手にはらないものの、市場参入への足がかりを得た状況です。
市場橋頭堡シェアを達成した後は、弱者の戦略で市場に挑むことになるでしょう。
マーケットシェアの活用方法【PPM分析】
マーケットシェアは自社商品やサービスが市場に占める割合を指し示すもので、マーケティング戦略に落とし込むには、他の調査結果や分析等を踏まえる必要があります。
マーケットシェアが活用できる分析方法の一つに、PPM分析があります。
PPM分析とはマーケットシェアと市場の成長率の2指標を組み合わせ、事業を以下4つのポジションに分類する手法です。自社の商品やサービスの分析や経営資源の投資配分を判断する際に活用されています。
花形(Star) | 市場成長率、市場占有率ともに高い状態 継続した投資によって大きな成長が期待でき、競争が激しい傾向にある |
---|---|
金のなる木(Cash Cow) | 市場成長率が低く、市場占有率が高い状態 収益性の高い事業が該当し、少ない投資で安定した利益を生みやすい |
問題児(Problem Child) | 市場成長率が高く、市場占有率が低い状態 拡大できれば花形への成長が見込める |
負け犬(Dog) | 市場成長率、市場占有率ともに低い状態 早期の撤退が望ましい |
PPM分析のメリットは、自社商品やサービスの市場における立ち位置や、競合他社との差分を明確にし、事業の資金分配の最適化が図れることです。注力すべき事業が明確になっていないケースにおいて、投資するべき事業が可視化されます。
反対にPPM分析には財務指標だけで分析され、それぞれの事業がもつ要素や事業間の関連性が反映されにくいというデメリットがあります。側面が加味されないために新規事業の立ち上げ等に活用するのは不向きだとされています。
▼関連記事ポートフォリオ分析とは?目的や注意点、活用事例などを解説
マーケットシェアを調査する上での注意点
マーケットシェアを調査する上での注意点は、主に以下の3つが挙げられます。
- 外部環境による影響がある
- 競合他社がシェア率を下げているケースもある
- 将来的な展望を予測するには不向き
外部環境による影響がある
季節的な傾向や一時的なブームなど、外部的な要因は、マーケットシェアに大きな影響を与えます。
集計時期や期間によっては、イレギュラーな数値が算出されるケースもあるため、あらかじめ外部環境を考慮した上で調査を実施する必要があるでしょう。
競合他社がシェア率を下げているケースもある
稀に競合他社が低いマーケットシェアになろうとも、利益率が低い顧客や製品等を減らすなど利益率を優先させることがあります。
競合他社のシェア率が一時的に減少した分、自社のシェア率が上がるケースも考えられますが、それは自社の事業成長によるものではありません。あくまでも他社が意図的に下げたことによって生じたブレともいえる数値です。
そのため、自社のシェア率が上がった際には、その要因に関してきちんと調べる必要があります。
将来的な展望を予測するには不向き
マーケットシェアは、あくまでも特定期間における自社製品の立ち位置が把握できる指標です。シェア率を調べるためのものであり、自社商品やサービスの将来性を予測するためのものではありません。
現状把握には有用ですが、自社商品やサービスの将来性を予測するには不向きだといえます。
まとめ
マーケットシェアとは、特定市場において自社商品やサービスが占める割合を示します。
マーケットシェアによって自社の商品やサービスが、市場で現状、どのような立ち位置にあるのかが把握でき、マーケティング戦略等に活用できます。
企業間の争いは、マーケットシェアの奪い合いと言っても過言ではありませんので、まずは自社の立ち位置を明確に把握しましょう。
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