プロダクトライフサイクルとは?メリットや具体的な戦略を解説

2022年02月16日

プロダクトライフサイクルとは?メリットや具体的な戦略を解説

プロダクトライフサイクルとは、企業の製品やサービスが市場に導入されてから撤退するまでのプロセスを体系的にまとめた理論です。

プロダクトライフサイクルは5つのフェーズに分かれており、自社製品を顧客に選び続けてもらうには、各段階に合わせた戦略が必須です。

この記事では、プロダクトライフサイクルの概要から、特徴やメリット、具体的なマーケティング戦略まで解説します。

プロダクトライフサイクルとは

「プロダクトライフサイクル」とは、企業の商品・サービスが市場に登場してから衰退するまでの変化を体系的にまとめた理論であり、「商品ライフサイクル」「製品ライフサイクル」とも呼ばれます。

プロダクトライフサイクルは、以下5つのフェーズに分類されます。

  • 導入期
  • 成長期
  • 成熟期
  • 飽和期
  • 衰退期

プロダクトライフサイクルのイメージ画像

マーケティング戦略を実行する上では、各フェーズの特徴を捉え、タイミングに合わせた施策を行うことが重要です。

各フェーズの具体的な特徴は以下のとおりです。

導入期の特徴

「導入期」は、製品を市場に導入した直後のフェーズです。市場は発展途上であり、新技術の登場によって市場が創出されるケースもあります。

製品が導入されたばかりのため、ユーザー数・売上・利益は小さいです。

導入期では、製品の使用方法や競合優位性をアピールして、シェアを拡大することが最重要です。

売上が小さいにもかかわらず、シェア拡大に広告宣伝費や人件費が必要なため、利益がほぼ発生しません。

成長期の特徴

「成長期」は、顧客や市場に製品が認知され、急速に普及するフェーズです。製品やサービス需要に加えて市場自体も拡大するため、売上・利益が一気に増大します。

成長期では、生産効率の上昇や市場拡大に伴い、新規参入業者などの競合他社も増えます。

競合に勝つためには、製品の差別化や改良を実施し自社のブランドやポジションを確立することで、市場に浸透させることが重要です。

成熟期の特徴

「成熟期」は、市場の成長が鈍化し、売上や利益が限界を迎え始めるフェーズです。類似製品や競合他社が多数出現しているため、消費者は製品に対して真新しさを感じません。

類似製品が溢れることで市場価値が低下するため、価格競争が激しくなります。

デザイン・性能の似ている製品が市場に溢れる中で、自社の取り分を最大化させるには、差別化によって他社との違いをアピールすることが必要です。

成熟期は市場シェアが安定します。市場シェアが安定しているため、シェアトップ企業が出現している場合、売上下位企業が逆転するのは一般的に難しいです。

飽和期の特徴

「飽和期」は、新規購入需要が頭打ちになるフェーズです。製品価格が下がり始め、売上・利益ともに停滞します。

製品を欲しい人はすでに購入しているため、飽和期では「リピーターを確保できるか」が重要です。

リピーター確保のためには、値引きやユーザー調査をもとにした製品改良などが必要となります。

衰退期の特徴

「衰退期」は、製品需要がさらに減少し、売上・利益ともに低下するフェーズです。

代替製品が出現して市場全体のニーズも減少するため、資金力のある一部大手を除き撤退企業が増えます。

事業を継続する企業であっても、既存製品のままでは売上を維持できません。製品のモデルチェンジや大胆な方向転換など、何らかの方法で新たな市場を開拓する必要があります。

プロダクトライフサイクルを知るメリット

プロダクトライフサイクルを知るメリットは以下の2点です。

  • 製品フェーズに沿った戦略により利益を最大化できる
  • 製品にかけるコストを正しく判断できる

製品フェーズに沿った戦略により利益を最大化できる

プロダクトライフサイクルを活用し自社製品の状態を把握することで、各フェーズに合わせた戦略を実行できます。

戦略実行の際に自社製品のフェーズを考慮することで、各ターゲット層に合わせた適切な対応が可能となり、利益の最大化につながります。

製品にかけるコストを正しく判断できる

プロダクトライフサイクルを把握することで、撤退判断も含め製品にかけるコストを正しく判断できます。

現在は顧客ニーズが細分化している影響で、多種多様なモノやサービスが開発されています。

そのため、特定の製品を使い続けることが少なくなり、プロダクトライフサイクル自体が短くなりやすいです。

事前にプロダクトライフサイクルの特徴を把握することで、撤退タイミングや「衰退期に突入したので集客コストは増やさない」など投入する費用を正しく判断できます。

プロダクトライフサイクルに関わるイノベーター理論

プロダクトライフサイクルの理解を深める上では、「イノベーター理論」の知識も不可欠です。

イノベーター理論とは、新製品・サービス・技術が市場に導入されてから「どのように・なぜ・どのぐらいの割合」で普及していくかを、体系的に分析した理論のことを指します。

イノベーター理論においては、下記の順番で市場に浸透すると定義付けられています。

イノベーター理論のカテゴリー分布イメージ

関連記事:【マーケティング】イノベーター理論とは?市場普及の鍵とキャズムを知る

5つの層の割合は決まっており、具体的な数値および特徴は以下の通りです。

◆イノベーター理論における各層の割合および特徴

イノベーター(革新層):2.5%
新製品を最も早く受け入れる層。
冒険心が強くリスク許容度も高いため、製品やサービスの良し悪しよりも目新しいものに飛び付く。
「導入期」のメイン顧客となる。
アーリーアダプター(初期採用層):13.5%
新しいアイデアや流行に敏感な層。
具体的な価値やベネフィットを検討してから取り入れる。
情報発信も積極的に行っており、周囲の仲間に影響を与えるため「オピニオンリーダー」になる人物が多い。
「成長期」のメイン顧客となる。
アーリーマジョリティ(前期多数派):34%
市場の平均よりも少し早めに新製品を受け入れる層。
口コミや周囲の評判を参考にして、メリット・デメリットを熟考してから導入を決める。比較的慎重な層。
「成熟期」のメイン顧客となる。
レイトマジョリティ(後期多数派):34%
新製品に対して抵抗感を抱える層。
リスクや不確実性を嫌うため、信頼性や安全性が完全に確保されてから受け入れる。
「飽和期」のメイン顧客となる。
ラガード(遅滞層):16%
新製品を受け入れない層。
購入までの期間が長く、最後まで受け入れない人もいる。
「飽和期」のメイン顧客となる。

製品企画〜アフターサポートまで、一連の流れをマネジメントする「プロダクトライフサイクルマネジメント」においては、イノベーター理論が定める5つのターゲット層を理解し、各フェーズに合わせたマーケティング戦略を実施することが重要です。

プロダクトライフサイクルマネジメントでは各フェーズごとの戦略立案が重要

プロダクトライフサイクルマネジメントとは、製品企画〜アフターサポートという一連の流れをマネジメントするマーケティング手法です。

製品企画〜アフターサポートまでを一貫して管理するため、「導入期〜衰退期」ごとの特徴やターゲット層を把握し、各フェーズに合わせた施策を実施することが必要です。

各フェーズで実施すべき戦略の概要は以下のようになります。

◆プロダクトライフサイクルの各フェーズで実施すべき戦略概要

導入期
CM・街頭サンプリング・展示会出展など、製品の認知度向上に重きを置いた戦略
成長期
販路拡大や製品差別化など、積極的なPR活動を含めて自社の利益を増大させる戦略
成熟期
メディア露出による信頼性アピールおよび自社のシェアに合わせた戦略
飽和期
徹底した製品の差別化など、リピーターを確保するための戦略
衰退期
(事業継続する場合)既存顧客への徹底したアフターサポートや大幅な製品改善による生存戦略

導入期の戦略

プロダクトライフサイクルの導入期には、「認知度向上」に重きを置いた戦略が必要です。

市場に製品を導入した段階では、消費者からの認知度が低いため利益は期待できません。利益を発生させるには、まず消費者への認知度を高め市場に浸透させることが必要です。

消費者への認知度を高める施策としては以下が挙げられます。

  • CM
  • 店頭での試供品提供
  • 街頭サンプリング
  • チラシ配布
  • ローカル雑誌広告の掲載
  • フリーペーパー広告
  • スキミングプライス戦略(高価格で販売し初期段階でコストを回収する)
  • ペネトレーションプライス戦略(低価格で売り出し素早く市場に浸透させる)
  • 展示会への出展

利益がほぼ発生しない状態で上記の施策を実施するため、導入期は赤字が続きます。しかし、市場シェアを獲得するためには導入期の初期投資が不可欠です。

導入期のターゲット顧客は「イノベーター」です。イノベーターは最先端の流行や革新的な機能にいち早く興味を持ちます。

そのため、自社製品の優位性や独自性をアピールするのが効果的です。

導入期の製品事例

自動運転機能付き自動車:一般には浸透しておらず、普及に向けて、展示会でのアピール・法整備・一般消費者への安全性アピールなどが求められる

成長期の戦略

プロダクトライフサイクルの成長期に差し掛かると、市場シェアや自社製品の認知度が急激に増えます。自社の利益を増大させるためには、積極的なPR活動が重要です。

ただし、利益を生み出しやすい成長期には競合も続々参入します。そのため、独自機能追加などの差別化施策も必要です。

具体的な成長期のシェア拡大施策としては以下が挙げられます。

  • 自社独自の機能搭載による差別化
  • 販売数拡大に合わせた製造ライン拡充
  • 販路拡大
  • SNSを活用したインフルエンサーマーケティングの実施

市場ニーズとマッチする製品であれば、製造ラインを急拡大しても多くの利益が発生します。

消費者ニーズを満たす製品を市場に提供できるよう、購入者の声をもとに商品改善をしつつ、認知を広げることが重要です。

成長期の主なターゲットは、流行に敏感な「アーリーアダプター」です。普及率16%の壁(キャズム)を区切りとして「成長前期・成長後期」に分類できます。
「キャズム」とは、製品普及に向けて越えるべき大きなラインのことです。
キャズムを区切りとして、イノベーター+アーリーアダプターの「初期市場」から、アーリーマジョリティからラガードまでを合わせた「メインストリーム市場」へ移行するには、目新しさではなく実用性をアピールすることが重要です。
成長期に販売数を確保するための生産体制や販路を整備しなければ、供給が需要に追いつかず撤退することもあります。

成長期の製品事例

スマートテレビ:インターネットに接続可能なテレビ。毎年普及率が拡大している。

成熟期の戦略

プロダクトライフサイクルの成熟期は、市場が安定し始める時期です。市場に競合他社が増え、製品への目新しさも減ります。

差別化が難しくなり価格競争がメインになるため、徐々に売上や利益は停滞します。

具体的な成熟期の施策は以下の通りです。

  • メディア露出による信頼性アピール
  • (シェアトップ企業の場合)シェア下位企業の差別化を阻止するミート戦略
  • (シェア下位企業の場合)スキマ市場を狙うニッチ戦略
  • 時代に合わせたリブランディング戦略

成熟期のメインターゲットは、製品の信頼性や安全性を重視する「アーリーマジョリティ」です。

そのため、メディア露出を通じて「世の中に浸透している」という信頼感をアピールします。

その上で、自社の市場シェアに合わせた戦略も必要です。

シェアトップ企業の施策:ミート戦略
他社の利益拡大を防ぐための戦略。
シェア下位企業や新規参入者が取り組む差別化戦略と同じ方向性の施策を実施することで、資金力や人員で勝るシェアトップ企業が優位になる。
シェア下位企業の施策:ニッチ戦略
大手が目をつけていないニッチ市場に狙いを定めた戦略。
市場を一点集中で狙い落とすことで大手から市場を奪える可能性がある。

いずれの場合も、ユーザー調査の結果をもとにした製品改善や差別化機能の追加などを実行します。

リブランディング戦略では、従来の自社イメージを覆す施策を行い、新たな価値を持つ製品として市場に打ち出します。

成熟期の製品事例

スマートフォン:現在ではほとんどの人が所有。

飽和期の戦略

プロダクトライフサイクルが飽和期に突入すると、市場に類似製品が浸透しきるため消費者ニーズは減少します。

新規購入者も頭打ちになるため、積極的な広告宣伝はほぼ行いません。「リピーターの確保」に重きを置きます。

飽和期には以下のような施策を実行します。

  • 特定ニーズのみに対応した製品への改良
  • 必要最低限の機能を備えた製品への改良

飽和期のメインターゲットは、新製品への抵抗感が強い「レイトマジョリティ」「ラガード」です。

そのため、新規購入者を増やすよりも、製品ユーザーの意見をもとに改良しリピーターを確保することが重要になります。

必要最低限の機能のみを備えた製品に改良することで、コスト削減にも繋げられます。

飽和期の製品事例

薄型テレビ:市場に浸透しており、普及率は横ばい。

衰退期

衰退期には市場ニーズが縮小するため、売上・利益ともに減少します。

そのため、多くの企業は利益を見込めず撤退せざるを得ません。

事業を継続する場合は、以下のような施策を実行します。

  • 既存顧客へのアフターサポートの徹底
  • (市場に活路を見出せる場合)新コンセプトや差別化戦略の打ち出し

事業を継続する場合は、既存顧客をフォローしつつ、大幅なコンセプト変更や劇的な商品改善の実施が必要となります。

衰退期の製品事例

「ガラケー」「DVDプレーヤー」:スマートフォンやインターネットなど、新しい製品の出現により衰退。

短期化するプロダクトライフサイクル

現在、あらゆる業界の製品でプロダクトライフサイクルが短期化しています。

そのため、ひとつの製品サイクルを長期化させるには、各フェーズに合わせたマーケティング戦略を実行し、顧客のニーズに応え続けることが重要です。

経済産業省が2016年に公表した「ものづくり白書」によると、すべての業界が「10年前よりも製品ライフサイクルが短くなった」と回答しています。

製品ライフサイクル 経済産業「ものづくり白書」

同調査において、プロダクトライフサイクルが短期化した原因として、以下3つの理由が挙げられています。

◆プロダクトライフサイクルが短期化した理由

  • 顧客や市場のニーズの変化が速い:53.5%
  • 顧客や市場のニーズの変化が速い:53.5%
  • 業界が過当競争に陥っている:15.9%

参考:経済産業「ものづくり白書」

現在はSNSやインターネットの発達により、大量の情報を得られるようになり、ニーズも多様化しています。

販売される製品の種類も多岐に渡るため、ひとつの製品に対する飽きが早いのです。

長く製品を使い続けてもらうには、各フェーズに合わせたマーケティング戦略によって顧客ニーズを満たし、製品サイクルを改善することが欠かせません。

プロダクトライフサイクル運用時の注意点

プロダクトライフサイクルを運用する際の注意点は以下の2点です。

  • 一般的なサイクルに当てはまらない事例もある
  • あくまでもひとつの判断基準として考える

一般的なサイクルに当てはまらない事例もある

市場に存在するすべての製品やサービスが、オーソドックスなプロダクトライフサイクルに当てはまるわけではありません。

一般的なプロダクトライフサイクルでは、ある程度長い時間をかけて「導入期〜衰退期」の流れを辿ります。

しかし、下記のように一般的なプロダクトライフサイクルに当てはまらない事例も存在します。

◆一般的なプロダクトライフサイクルに当てはまらない事例

  • 生活必需品
  • 独自性の強い商品
  • 商品ブランドが確立している商品
  • 季節ごとに需要がある商品

家電や洗濯機などの生活必需品は、モデルチェンジや機能革新はあっても「家電自体が無くなる」ということはありません。

キャッチーな謳い文句が印象的なお菓子やCMで美味しい食べ方を提案するラーメンなど、ブランドが確立されている製品も長く愛され続けます。

蚊取り線香など、季節ごとに一定の需要がある製品も、プロダクトライフサイクルとはあまり関係ありません。

上記含め、以下4パターンに該当するプロダクトライフサイクルも存在します。

反復型
一旦売り上げや利益が低迷したが、新機能追加などにより再度成長期を迎えるパターン。

反復型のプロダクトライフサイクルイメージ

スタイル型
短期的なプロダクトライフサイクルを繰り返すパターン。
消耗品や家電など生活必需品に当てはまることが多い。

スタイル型のプロダクトライフサイクルイメージ

ファッション型
衰退期に突入する期間が短いパターン。
イノベーターや初期のアーリーアダプターには受け入れられるが、市場全体には浸透しない。

ファッション型のプロダクトライフサイクルイメージ

ファッド型
急激に普及してから一気に衰退期へ突入するパターン。
ごく一部のマニア層にしか受け入れられない。

ファッド型のプロダクトライフサイクルイメージ

あくまでもひとつの判断基準として考える

プロダクトライフサイクルは、あくまでもマーケティング戦略を考える上での「ひとつの判断基準」に留めることが大切です。

プロダクトライフサイクルは、理論上で製品や市場の成長具合を判断しているに過ぎません。実際には、反復型やスタイル型のように、予想外の動きをすることもあります。
そのため、理論ばかりに目を向けていると自社製品の現状を正確に把握できません。

プロダクトライフサイクル理論はあくまでもひとつの判断基準に留め、現実の売上や世間の流行をもとにして、複数のシナリオを用意することが重要です。

まとめ

プロダクトライフサイクルは、製品導入〜衰退までの流れを体系的に表現した理論です。製品を市場に導入してからは、自社の現状を判断し各フェーズに合わせた適切なマーケティング戦略を実施することが重要になります。

自社のフェーズに合わない戦略を実行すると、利益獲得のチャンスを逃すことにもなりかねません。

プロダクトライフサイクル理論と現実の売上を考慮しながら、自社に最適な施策を実行し、利益を最大化させることが重要です。

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