エスノグラフィー調査(行動観察調査)とは?方法や実践事例、メリット・デメリットを 解説
2022年06月09日
エスノグラフィー調査(行動観察調査)は、消費者の普段の行動観察を通じて深層心理が把握しやすい定性調査です。
深層心理や消費者の潜在ニーズを把握し、サービス開発やコンセプト設計に役立てられます。
この記事ではエスノグラフィー調査の概要から、メリット・デメリット、実施方法・事例を解説します。
エスノグラフィー調査(行動観察調査)とは
エスノグラフィー調査は対象者と一定期間生活を共にし、普段の環境や行動を観察する調査手法を指します。定性調査の一種で、行動観察調査とも呼ばれます。
もともとは人類文化学等の学術分野発祥の手法であり、マーケティングにおいては消費者の潜在ニーズの把握に活用されています。
アンケート調査・インタビュー調査との違い
◆アンケート調査・インタビュー調査
- 調査対象者の顕在ニーズが把握できる
- 多くの回答を集めやすい
- 調査の実施ハードルが低い
アンケート調査やインタビュー調査は、設問を設定すればすぐにでも実施しやすく、インターネット等を駆使して大人数にアプローチして多くの回答を集めやすい調査です。
そのためエスノグラフィー調査のように「調査対象者と一定期間行動を共にする」必要がなく実施ハードルは低いといえます。
アンケート調査やインタビュー調査では、あらかじめ企業側が設定した設問に対して回答します。
聞かれたことに関して答える形式のため、調査対象者がすでに認識している顕在ニーズを把握する際に有効です。
例えば「性別・職業・地域など単純な属性を集計する」「購入者の意見を数多く集めてサービス改善に役立てたい」という場合に活用できます。
◆エスノグラフィー調査
- 調査対象者の潜在ニーズが把握できる
- 1回の調査における対象者が少ない
- 調査の実施ハードルが高い
エスノグラフィー調査は、調査対象者の普段の行動観察をメインとした調査手法です。
普段の何気ない行動を観察し、深層心理や潜在ニーズの理解を深めるのに有用で、例えば「新サービス開発のためにターゲットの行動を細かく調べ尽くしたい」という場合に活用できます。
調査対象者と行動を共にするため深い潜在ニーズまで踏み込みやすいものの、多数の調査対象者を設定しにくく、実施期間も長いため調査を実施するハードルは高いです。
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エスノグラフィー調査のメリット
エスノグラフィー調査は、消費者の潜在ニーズを探る際に有効的な調査手法で、具体的には以下2つの実施メリットがあります。
商品やサービスのリアルな活用方法が把握できる
商品やサービスを開発する際は、企業側で消費者の利用シーンを想定しています。しかし実際に商品を利用する際、異なった利用方法を消費者自ら実施しているかもしれません。
アンケート調査などでは事前の質問作成段階で、企業側の願望や固定概念が入り込みやすく、企業開発者側が考える以上の消費者ニーズを読み取れない可能性が高くなります。
エスノグラフィー調査では、商品やサービスにおける消費者のリアルな活用方法を把握しやすいです。
開発者側が想定していない商品の使い方を知ることで、サービス改善や新商品立案に役立てられます。
商品やサービス購入に至った理由や背景を理解できる
アンケート調査やインタビュー調査でも、消費者に「商品やサービス購入に至った(至らなかった)理由」をヒアリングできます。
しかし購入に至った理由や背景を詳しく聞くのは設問数が多くなるため、表面的な内容の把握に留まることが多いです。
その点エスノグラフィー調査では、普段の行動を観察するため、消費者の商品利用状況や理由、背景を具体的に把握しやすくなります。
気になった点を細かく観察したり、質問したりすることで、購入に至った(至らなかった)理由まで把握しやすく、今後のターゲット策定やサービス改善、コンセプトの見直しにつなげることが可能です。
エスノグラフィー調査のデメリット
エスノグラフィー調査では一定期間、消費者・調査員の時間と場所を拘束するうえ、録画機材の調達も必要なため、実施難易度が高いです。
また調査方法に関しても行動観察をメインとして対象者の考えを読み取るため、調査員に「普段の行動に含まれた意図」を読み取るスキルが必要です。
また行動観察と併せて、消費者への聞き取りも適宜実施します。「深掘りすべき点を見極める」「質問タイミングを逃さない」という技量の伴った調査員がインタビューを行う必要があります。
エスノグラフィー調査の実施方法
エスノグラフィー調査は以下の手順で実施します。
【ステップ1】調査の設定
エスノグラフィー調査開始前に、具体的な調査概要を設定します。
◆調査開始前に設定すべき項目
- 調査期間
- 調査対象者の人数
- 派遣する調査員の人数
- 調査目的
- 利用する機材
- 調査場所
- 仮説
仮設に関しては、既存顧客データと売り上げデータを元にして、調査対象者が抱えているであろうニーズを仮で設定します。
仮説設計が疎かになると、調査後に「自社の考えと実際のニーズ」の間にあるズレを認識できず、具体的な改善箇所が判断できない可能性が高いです。
【ステップ2】調査対象者の選定
エスノグラフィー調査では、2タイプのエクストリームユーザーを調査対象者に据えて調査することが多いです。
- エクストリームユーザー
- 「商品やサービス利用頻度が一般よりも多い」ヘビーユーザーおよび「絶対に使わない」アンチユーザーを含め、商品やサービスへの捉え方が極端なユーザーのこと。
エクストリームユーザーは一般ユーザーよりも強いこだわりを持っている可能性が高く、両者の捉え方を観察することで商品やサービス開発・改善に役立てやすくなります。
例えばヘビーユーザーの商品利用理由を細かく引き出すことで、一般ユーザーにアプローチする際の強みを考えられるでしょう。
反対にアンチユーザーから商品を利用しない理由や代替手段を引き出すことで、具体的な改善提案につなげやすくなります。
【ステップ3】調査の実施
エスノグラフィー調査では、調査対象者の自宅など普段通り生活できる場所で行動観察を実施します。
店舗や事務所にカメラを設置し、来店した調査対象者の行動を調査したり、対象者の外出先に同行し外での行動を観察したりすることもあります。
また行動観察だけでなくインタビューも適宜実施します。
丁寧に調査対象者の行動を観察するためにも、十分な調査時間を確保することが重要です。加えて調査結果を多角度から検証するために、複数名での調査が望ましいでしょう。
【ステップ4】調査結果の分析
調査結果を分析し、今後の新商品開発やコンセプト設計、サービス改善に役立てます。
調査で得られた結果から行動の傾向を捉え、調査対象者ごとの細かな行動の違いなどもデータとして残しておきます。
行動データをもとにディスカッションを繰り返し、調査対象者のニーズを深掘りして整理します。
行動観察を通じて調査対象者のリアルな反応をチェックし、読み取れた傾向を踏まえて、取り組めそうな改善施策の実施に役立てましょう。
エスノグラフィー調査の実践事例
エスノグラフィー調査は、業界・業態問わず、さまざま企業のマーケティング活動で活用されています。
- A社:米国食品メーカー
- B社:消費財化学メーカー
A社:米国食品メーカー
売上低迷に悩まされていたアメリカの食品メーカーであるA社は、主力商品である「ボトル入りケチャップ」の改善に着手し、マーケティングチームを発足します。
チーム所属の社会学者協力のもとでA社は、ケチャップを購入した消費者の自宅を訪問し、使用状況を観察するエスノグラフィー調査を実施。
調査の結果「ボトルや瓶入りケチャップを逆さまにして最後まで使い切る」行動をとる消費者が多いと判明しました。
逆さまにすることで、確かに最後までケチャップを使い切れます。しかし逆さまにするとケチャップが出すぎることもあるため、消費者自身は「逆さまにして使う」という状況を快く思っていないようでした。
エスノグラフィー調査から消費者の悩みが把握できたA社は、ボトルの開け口が下に付いており、普段から逆さまに保管できる「逆さケチャップボトル」を開発します。
利便性に優れた逆さケチャップボトルは話題を呼び、発売から3ヶ月で「純利益17%以上増」を達成しました。
B社:消費財化学メーカー
日本の消費財化学メーカーであるB社は、今後の商品開発に活かすため「消費者のアンチエイエジングに対する意識調査」を実施しました。
消費者の加齢に対する捉え方やアンチエイジングに取り組む理由を紐解くため、B社はエクストリームユーザーへの聞き取りを重視します。
B社が選定したのは、糖尿病によって食事制限を強いられている若い男性や、突然アンチエイジングに消極的な姿勢を見せた40代女性などの5名です。
5名のユーザーに対し、社員食堂への同行や自宅でのインタビューなどを実施。調査データを収集し結果を分析する過程で、事実をもとに社内で複数回ディスカッションを重ねました。
その結果、5名のユーザーはエイジングに対して「病気や環境の変化などにより従来の価値観が崩れ、アイデンティティーを更新する過程に訪れるリアクションである」という共通心理を持っていると結論付けました。
エクストリームユーザーへの調査後に、一般モニター9名へもエスノグラフィー調査を実施したところ、上記心理が当てはまることを確認できています。
まとめ
エスノグラフィー調査は、マーケティングにおいて消費者の行動観察を実施する際に用いられる手法です。
行動観察を通じて消費者が無意識に抱える悩みや要望を把握しやすく、商品やサービス改善、コンセプト設計に役立てられます。
実際の調査は「時間の確保が必要」「調査員の技量が問われる」という理由でハードルが高いため、リサーチ会社への依頼も検討しましょう。
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